遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
……貴方も堕落させられた?
消化不良……まさしく、そうだ。
(影を宿した瞳は切なさを秘めて、遠い記憶を反芻する)
……そうだ、僕は兄さんを悪意から守るべきだった。毒は毒だと。何でも口にいれたらだめだよって……
手伝い……僕にはそんな資格、ないな……
心無い慰めは得意だけれど、そんな言葉聞きたくもないでしょう?
(斑鳩さんの語る思い出に心地よさげに目を閉じる。眠りながら聞くピアノに微睡むように)
……
度し難いなんて思いませんよ。僕にはそこまで悪い関係には感じない。貴方を苛つかせる事が出来るのは時任彼方だけで、時任彼方を必死にさせる事が出来るのは貴方だけ。それが煩わしさや劣等感でも特別な感情である事に変わりはない
……もう、疲れましたか……?
対になるその名を葬っても、まだ貴方は生きています。
惰性で呼吸し、ぽっかりと空いた虚無を友人の死の原因究明で埋めようとしている。生きる理由を探すように。今迄何の疑問も抱かなかったそれを貴方は遅れて気付いたような……
死ぬよりも苦しい蟻地獄から抜け出そうと
砂の中に埋もれて窒息してしまう前に
(斑鳩さんがハンカチを取り出すのを見て、理性を取り戻そうと、涙を堪える。叱られた子供みたいに何度も頷きながら。聞き終わると少し黙り、無垢な瞳を潤ませて深く頷く。本当に斑鳩さんの言葉を理解した証に、ハンカチを受け取って)
……はい。そう、ですね。
(ハンカチをきゅっと握りしめ、決意の表情)
何もしなかった、かもしれません。けれど助けを求めている事も知らなかった
それこそ、零れた砂の量を推し量るようなもの
酷い言い方ですが……彼を殺せるのは貴方だけだった。ならば生かしたのも貴方です。歪んだ人間の戯言ですが
生きたから死んだ。死んでいないから生きている、それよりはましだ
ええ、だから貴方は苦しんでいる。彼からの贈り物が、幸か不幸か貴方を変えた。変わったなら、別の人間になるしかない
挫折……か。そうですね。僕は自分が完全たる自負があった。僕が嫉妬したのは平凡さ……か
僕は、兄さんの笑顔以外の顔が見たかった。最初は妬み。醜い本性を暴きたかった。それが次第に別の意味へと形を変えた……。僕は兄さんの笑顔は好きだったけど、それ以外の顔も見たかった。別に意地悪だけじゃなくて……
悲しみを、痛みを、僕に教えて欲しかった。僕はそれが知りたくて
涙を見ると嬉しくなったし、声をあげると胸がはずんだ
痛みなら、感じたから