遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
(他の誰に資格があるのかと問われ)
……さあな。俺が知りたい位だ。裁くのと許すのは似ていると思わないか、皆口君?
理解している事が免罪符にはならないさ。理解しているからこそ断罪できない、深く知れば知る程に…はたしてこいつを裁けるほど自分は上等な人間なのか疑問になる
……その点じゃ潔癖すぎるのかもな、俺は。
大人をからかうんじゃないよ(従夢君の虚勢に付き合う事にし)
君は幻覚にしては毒舌すぎる、触れたら棘が刺さりそうだ。
上書きと言われても何をどうすればいいのか……(困惑した表情で)
……本当に勘弁してくれ。なんていうか、似合わないだろ。だから嫌だったんだ(ごく薄らと顔を染めて)
……ヴァンパイア症候群という症例を知ってるか?
吸血鬼に血を吸われた人間が吸血鬼になる、そうしてどんどん個体数が増えていく。そのようにして虐待された人間が自分の子供にそれを繰り返し、何世代も悪循環が続いていく。
物心ついた時一番身近にいた人間を本能的に真似る生き物だよ、人間は。世にいう刷り込みだ。
君を擁護するつもりはないが……ある程度は不可抗力だったのかもな
少なくとも、今の君にはその行為を悔いるだけの理性と判断力がある
それは成長した証じゃないか
恋人を独占したいと思うのは自然だろう。おかしなことじゃないさ、何も
相手も迷惑なら遠ざけるだろう、それをしないのは君に好意を持ってるからだと俺は思うが
まあ……無害そうに見えるんだろうね。内実はどうあれ、配偶者としては堅実なタイプだし
彼女はどうだったんだろうな……こないだ同窓会で会った。来月には結構するんだそうだ。
「あなたは殆ど気持ちを伝えてくれないから、本当に好かれてるのかいつも不安だった」と言われたよ。
別れたのは……やっぱり俺に原因があるんだろうな
随分と殊勝な事だな。その人物のおかげで宗旨替えしたと?
相手に同じ分だけ返せと望むのは愚かだ、恋愛はいつだってどちらかの方がより重い、釣り合う事はないさ、永遠に。
そう割り切った上で尽くす悦びを見出せたのなら、稀有な出会いかもしれないね
……自分が与えたのと同じだけのモノを乞うからいつも話がこじれる。
そんな押しつけされても困るだけなのに……
だから君は正しいよ。あとは機が熟すまで待てばいい。いつも、いつまででも