1
深い深い闇に空が覆われた、深夜の猫鳴館。
この寮に住む個性的な面々も今夜は眠りについたのか
猫鳴館は一時の静寂に包まれている。
花風冴来はその寮にある自室で独り、
カーペットが敷かれた床に座り込んでいた。
普段小さな、時には物騒な悪戯を考えては
クスクスと不穏な笑い声を零す
彼女も、今は寂しげな表情を浮かべている。
普段騒がしいこの寮に不意に訪れる静寂が、
冴来はとても嫌いだった。
孤独な部屋の中、昔の
辛く悲しい記憶が頭の中で蘇る。
何一つ不自由のない裕福な生活。
他者からみれば幸せに見えたのかもしれない。
だけれど、ずっとずっと、寂しかった。
愛する両親がいつも傍にはいなかったから。
「ごめんね。大丈夫。貴女は強い子だから。」
そんな言葉と共に、頭に置かれた手のひらの温度を懐かしく想う。
もう一度それを感じたい、と強く願う。
だけれどそれはもう叶わない。
愛する二人は冴来一人を置いて、遠く空の上へ旅立ってしまったから。
傍にいて欲しかった。
ずっと、ずっと。
それさえ叶うなら綺麗な服も、
美味しい食事も、何も、何もいらなかったから。
4
「会いたいなあ…。」
そっと目を閉じ、休息を得られずくらつく頭で
愛しい義妹の笑顔を思い浮かべる。
姉様と呼ぶ甘い声、ずっと一緒にいられたら素敵だと
伝えたときに向けられた愛らしいあの笑顔。
そうだ、今日は一緒に学校へ行こう。
早めに準備をして、私達の家まであの子を迎えに行こう。
きっと驚くだろう、けど、あの子は直ぐに笑って
自分の手をとってくれるだろう。
だって私達は、仲のいい姉妹だから。
「大丈夫。ちゃんと笑えるよ。
私は強い子。お姉ちゃんだもの。」
幸せな情景に想いを巡らせ冴来は
ー大切な宝物、義妹から贈られた黒猫の縫いぐるみを、そっと抱きしめた。
(緑の進撃・猫鳴館の乱
http://rakkami.com/scenario/guide/237
森繁美術館に行こう
http://rakkami.com/scenario/guide/245
後)