寝子島最速伝説：島岡雪乃の場合｜リアクション

寝子島最速伝説：島岡雪乃の場合

げーせんひゃっは～！

●密林へようこそ・急

　大田原いいなと約束をして待ち合わせていた藤堂月乃は、今日という日をとても心待ちにしていた。
　というのも、こうやっていいなと出かけるのは初めてだったのだ。月乃は初めての体験に胸を高鳴らせながら、まずは今日の弾丸をと両替機で小銭を両替し、ゲームセンターの入口付近に設置されたクレーンゲームの前へと陣取った。

「さて、今日はたくさんとるぞー」

　そう言いながら今日の獲物を選定し始める月乃。
　今の寝子島の流行はニャクセサリー。
　猫や猫の部位をモチーフにしたアクセサリーやグッズの数々だ。
　クレーンゲームのケースの中にも様々なニャクセサリーが所狭しと積み上げられている。

「今日はどんなぬいぐるみを取ろうかなー」

「この『かえるのケロポン』のぬいぐるみもかわいらしいぞ」

「それもいいけど、今日は猫のぬいぐるみがいいなぁ……」

　女の子同士できゃっきゃしながらも月乃の目は獲物を追い詰めるハンターのそれと化していた。
　
「おお～！　『なが～いちょこ婆』が山と積まれておる！」

　一方のいいなはお菓子の積み上げられたクレーンに目を付け、さっそく首にぶら下げたがま口から小銭を取り出して、お宝ゲットを目指す。

「ぬぬ、少しずつ動かさねば取れぬ置き方であったか……ちと、予算を超えてしまいそうじゃの……」

　いいなは四苦八苦しながらもお菓子のタワーを攻略し、なんとか目当てのチョコバーをゲット。
　一度ゲットすれば後は心得たもの。そこから先は流れ作業のように次々と出口へお宝を運び続ける。

「………やっと取れたか、背負った袋にも入り切らなくなってしまったのう……
　月乃殿の方に向かってみるかの？」

　戦利品のチョコバーをかじりながら、月乃の首尾はどうかとのぞいてみれば、彼女はぬいぐるみの並んだクレーンゲームの前で難しそうな顔をしていた。

（取りやすい位置にいるかを確認し、向き、周囲のぬいぐるみの配置などをよく見て、
　どの子を狙うかを決める。アームの強さも見なくてはいけないので、試しに一度動かそう。
　連投していけそうな雰囲気だったら、続けていく……）

　何度も失敗しながらも、神妙な面持ちで目標を見据え、うんうんと唸りながらクレーンを操作している。
　かわいい動物のぬいぐるみを猫鳴館の自室に迎えるために、絶対にあきらめられないのだ。

「ふぉ？　……まだ難儀しているようじゃの」

　いいなはくわえていたチョコバーを一息に呑み下し、新たに取り出した一本を月乃に手渡し、一旦休憩させて空気の流れを変えてみる。

「これは頭の下を狙った方がよいのかの？　手前に倒せるかのぉ……」

　いいなのナビゲーションの元、再度チャレンジを開始する月乃。
　下がったクレーンの爪がぬいぐるみの端に引っ掛かり、危なげながらもそれをゆっくり引き上げていく……そして

「……！！　取れたのじゃ！　取れたぞな、月乃殿！」

　取出し口から転がり出てきたのはニャクセサリーの一種、不条理アニメ『ニャンビッチ』のキャラクターぬいぐるみだ。囚人服を着たシュールなデザインだが、どことなく憎めない。

「やったー！」

　二人の少女は手を取り合って喜び合う。