そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

　眩い星空と、それよりも明るい島の灯に、浅崎あやかは心をときめかせていた。
　観覧車は二人を乗せ、夜のゴンドラのように高く舞い上がった。
　地上にあっても陶然としたようすのあやかに、さっと唇を重ねる智基。
「また来ようね」彼の背後に、揺らめく海が広がった。
「ええ、また来ましょうね」

　潮騒が、二人を優しく包む。

　―ｰあなたと未来の約束をすることが、こんなに幸せ。
　だから、自然に触れ合う唇も、笑みの形になってしまう。

　夜はまだ若い。カフェで食事。そのあとは。
「今夜は一泊して、温泉でもいいね」
　振り仰いだあやかの眼前に、悠揚迫らぬ桜葱智基の姿が映った。

　――ああ。

　智基はこちらを向こうとはしない。

　振り向かないで……彼に見られたら、きっと自分は、避けられない。今夜は彼の腕の中に。

　熱い予感に、あやかの胸はときめいた。

　旧市街のとある一角。
　浅葱あやめは、あいかわらず鬱々とした気分で眼鏡の手入れをしていた。
　なんだか知らないが、ハシバミがこちらを薄気味悪そうに見ている。
　時計の音だけが響く。静寂のひととき。

　怒号と悲鳴が起こった。
　鈍い打撃音。
　何事か、と扉を開けたあやめの眼前に、金属バットを振りかぶった桜崎巴の姿が映った。

　――ああ。

　巴はこちらを向こうとはしない。

　こっちを見ないでくれ……あの金属バットが向かってきたら、きっと自分は避けられない。今夜はアスファルトの路上に。

　

　熱い予感に、あやめの眼前は真っ暗になった。
　
　

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