もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

　夕暮れが迫る。
　山の影に飲み込まれると、果物人間の体が、果物へと帰って行った。

　祭りの終わりを予感し、武道が「ハイドーゾ！」と、自らの葡萄をさらす。
　ここまで来たのだ。思い残すことなく、すべて食べてもらうのがいいだろう。
「エ？　ソノママクラウ？　アーレェー？」
　武道の絶叫も、山の彼方に消えていく。

　レモンと蜜柑を口に入れ、雅人は空を見上げた。
　自爆してしまったという梨は食べそこなったが、他はみな食べることができた。
　全部味見したかったという気持ちはあるが、これは十分すぎる結果だろう。
「全部、おいしかったです……」
　残照が長く伸び、やがて彼も一つの栗となった。

　名残を惜しむドングリの精に、別れを告げる修。
　また会えるよ。そういって笑いかける。

　カラリ。
　その時、最後の落石が、ドングリの精を狙った。
　迷わず修は胸元からドングリを取り出す。最後の炸裂弾が岩をはじく。
　がっくりと力の抜けていく修。
　走り寄るドングリ。最後に彼らを守れたことを喜び、修の意識も闇にまぎれていった。

●
　やはり、一番美味しいのは梨ー。
　そう、謡は納得する。
　だが、釈然としないものが残った。
　なぜ、みんな哀れみのような目で自分を見ていたのだろうか。自分は、梨なのに。

　鳥の声が、止んだ。
　世界の静止する音がした。

　まさか。

（えー？　梨じゃ、ない？）

　自分の長く伸びる影。

（このフォルム……）

　鏡に映じた、己の姿。

（何とも言えない緑……）

　深刻な絶叫が、心の懸崖から迸ってくる。
　縋り付く幼児のような、悲痛で、物悲しい声だった。

（梨でしょー……）

　リンゴの瞳。椿の瞳。檸檬の瞳。
　そこにあったのは、明らかな疑念の色だった。

　壊れた人形のように、謡は自分の顔をちぎる。
　一口噛みしめ、その酸味の迸るままにする。

「こ、こ、これは……」

　予想されていて、それでも認めらなかった答え。

「りんごじゃねーか！」

　そのまま謡は、爆散した。
　彼の身体は、ドングリ農園の空に、花火となり開いた。

　黄昏の闇が、潮のように押し寄せてくる。

　梨なのか、林檎なのか。黄昏は残酷に、彼の存在理由を飲み込んでいった。

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