もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

「一口、食べてみたいっす」
　
　表情もかえずに、本田誠也は言った。

　栗の彼は『すべての果物を一口づつ食べてみる』というのが目標だった。
　ヒット＆アウェイ。
　鋼の信念で、自分の道を貫いてきた。
　孤高の戦士、という意味では、刀と一脈通じる。
　その信条、臭いくらいで曲げるわけにいかぬ。

　刀は頷き、ドリアンを渡す。
　表情を変えず、誠也はそれを食べる。

　そして、やおらマロンフルコートをキャスト。
　巨大な栗のイガに引きこもる。

　中から、うめき声と嗚咽が聞こえたような気がした。

　己の道を歩むのは、果てしなくしんどい。
●
「あ、少年！」刀に手を振って近寄るのは、真境名アリサ。
　あまりにも扇情的な衣装に目をそらし、刀は挨拶する。
「少年は、何になっちゃったのかな？」わざと躰を擦り付けるように話しかける。
　メロンの濃厚な匂いが、強く漂う。
　甘怠く、酷があって、それでいてどこか爽やかな匂い。
　ドリアンの香気とまじりあうと、不思議なハーモニーが奏でられた。
「……あ、ドリアンね。一口いーかな？」
「……大丈夫なんすか？」先ほどまでの嫌われっぷりとは、あまりに対照的な様に、むしろ刀が戸惑う。
　
　胴から手を回し、わき腹のあたりの果肉をつまみあげ、アリサは頬張った。
　ドリアンの汁で唇が真紅にぬれる。咀嚼し、満足げな吐息をついて、嚥下する。
　歯に絡みついた繊維を、舌がなめとった。
　白い喉が上下し、ほのかに赤く色づいた。

「うん、おいしー」
　頷いて、さらにもう一口頬張る。

　あっけにとられる一同。

　南国育ちのアリサ、臭いのきつい果物は馴染み、むしろ大歓迎だった。
　夜の仕事でも、山盛り供されるパッションフルーツ。大半の客が残してしまうそれらを、アリサは美味しく頬張る。
　これで、その見事なプロポーションが保たれているのが不思議だ。

　誰も手のつけられない王の版図に、今手が付けられた。
　まこと、歴史を作るのは女である。

　歓喜のあまり、必殺技『メロンバスト』を繰り出してしまったのはご愛嬌である。

●
　そのさまを見て、黙っていられないのは真央。

「真央ちゃんは食キング！　すべてがちがうのだ！」
　食に関してチャレンジャー。理学療法士を志望する彼女、食べ物の知識も豊富。
　まして今日の彼女は、銀杏の魂を背負った戦士。
「ただ制圧前進あるのみ、なのだ！」

　言うなり、刀のドリアンを、口いっぱいに頬張った！

　予備動作なし。一切の躊躇なし。
　
　燃える瞳で果肉を噛みしめ、飲み下す。
　その顔色が、モスグリーンに変じる。

「真央ちゃん！」叫んで飛び出す武道。
「武道ちゃんセンパイ……」真央は、凄絶な笑みを見せる。「退かぬ、媚びぬ、顧みぬ……」

　どうも最近の真央のブームは、聖帝らしかった。
　夏くらいはもっぱら七つの傷が胸にあったりしたのだが、最近は聖帝を少々たしなんでおりますのという感じだ。

　君よ！　友よ！
　まこと、その瞳に焼き付けるがいい！
　食に生き、食に殉じた聖帝の、これが喰い様であった！

（かえりみてくれ……）

　武道のつぶやきが、風にまぎれた。
●
　ふむと頷き、立ち上がる五月。
　じつはちょっと興味があった。この状況を、もっと楽しみたい。
　近寄って、刀の果肉を貪る。飲食店の一人娘、これしきの事では動じない。

「フルーツフレンドですね」優芽も頷き、刀を食うのに参加。
　女子二人が、臭い男子を食らう。
　謎の光景だった。刀が幸せそうなので、問題はないのだろう。
　その様子をみて、武道たちも参加。

　ほどなくして、刀の体は極小まで縮んだ。
　王は、今こそその力より解き放たれたのだ。

　フルーツフレンドに合流する刀。

　だが、やはり周囲は遠巻きである。
　果物の王たるドリアン。芯まで、皮まで臭い。

（俺は、孤高の王……）刀は空を見上げた。ぼっちってゆーな。