もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

「食べてみてくれ！」刀は絶叫する。「美味しいと思うからさ！」
　どうぞどうぞ、と差し出す刀。
　ぎゃー、と逃げまとう果物転生衆。

　なんだか、心をえぐられる光景だ。

「ああいうのは、何とかできないんですか」五月が問う。「ミラクル的なあれで」
「いくらなんでも、そんなミラクルは無理だね」にべもなく言い放つ望春。

　突如、地面がずもももっと盛り上がる。
　大地に潜み、隙を狙っていた空音だ。

　時折見せる憂愁の影が、腐女子のハートをストライクすると噂の刀。
「ふ……ふへへ……」
　すでに雅人は食った。
　刀を食らうことにより、脳内カップリングならぬ、胃の中でのカップリングを愉しむのも良い。
　
　ばこっ！
　地面が割れ、飛び出す桃音。
　刀は応じて、ドリアンを突き出す。
「食べてみてくれ！」

　ぴた。
　空音は空中で静止した。
　ドリアンの匂いを、まともに鼻先で嗅いだ。
　まるで何かに吊られたように、空音は宙を泳いで、地面の中へ帰還する。

　苦しみともうめきともつかぬ声が、地面の中に響いていた。

●
　こうなったら実力行使である。
　刀は両手にドリアンの塊を持ち、すでに慣れた手順で精神を集中させる。
　脳裏に描かれる銃のイメージ。
　撃鉄を引く感触には、一生慣れる気がしない。
　
　―－とにかく一口、食べてもらう。
　ガチッ！　引き金の感触とともに、世界が溶解し、まるで火中のテレピン画のように、色を混ぜて溢れ出す。
「加速！」やけくそ気味に刀が叫ぶ。「速さで俺に勝てると思うなよ！」

　絶叫しつつ、刀は神速で飛び出す。
　手にはドリアン。
　その先には、檸檬・みちる・謡・リンゴ。

　一気に間合いを詰める！
　躊躇は無用。一同の口に欠片を抛りこむ。
「ちょっと味見をするだけだから」

　全力の加速で、大地がドリアン色に染まる。
　刀の軌跡には、ドリアンの臭気がナメクジの跡のように溜まる。

「匂いはキツイけど、美味しいから！　まずは食え！」

　あちこちで上がる、悲鳴と悶絶の声。
　味よりも何よりも、臭いが目と鼻に来たらしい。
　止まらない鼻水と涙。ドリアン花粉症。そんなものがあるならどれほど恐ろしいだろう。

「－－いや、臭くてまずいだけだったら、王様とか呼ばれないだろう？
　美味しいところもあるから、呼ばれるんだよ……」

　刀の言葉は一理あった。
　なんだか臭いに慣れてくる者もいた。

　ドリアン、ちょっと食べてみてもよいか。だが空気的に、食べられる様子ではない。

　だれか、均衡を破る者がいれば……。