【星幽塔】薄闇よりの挑戦状｜リアクション

【星幽塔】薄闇よりの挑戦状

承：それぞれの戦い（１階編）

「おや？」
　２つ目のかまどに火を入れようと覗き込んでいた日暮ねむるは、そこでなにやら丸い物を見つけた。よく見ると、黒い炎のようなものが踊っている。エリオナイトが持っていたオーブにそっくりだ、と思いながらねむるはそれを引っ張り出した。
　手にしたオーブは氷のように冷たかった。思わず足の上に落としそうになり、急いでキャッチ。ふぅ、と一息つきながらもねむるは首をかしげる。
「これって探さなきゃならない奴かな？」
「でも、どうやって壊すんだろう？」
　近くを捜索していた御剣刀が怪訝そうな顔で首をかしげる。エリオナイトは確かに「破壊しろ」と言っていたが……。
　だが、時間は無い。２人はとりあえず、他のオーブを見つける事を優先させる事にした。
「ちょっといいかい？」
　サキリ・デイジーカッターは見つかったオーブの前に騎士の光で呼んだ大きな狼に跨り近づく。それににおいを嗅がせよう、というのだ。東条あんずも同じ事を考えたのか、ラフィに跨って近づいた。
　椿美咲紀や夏朝が見たら「もふもふしたい」と思うかもしれないほど可愛いツーショットはさておき。狼とラフィはふんふんとにおいをかぐ。
「エリオナイトが１１個隠したと言っていた。それが本当ならオーブの近くにはエリオナイトの匂いが残っている筈だ」
「それを手がかりにすればいいって事なんだ！」
　サキリが真面目に言う傍で、あんずが胸を張る。そんなしぐさがかわいいのか少しだけほっこりするものの、時間は有限である。
「頼んだよ」
　サキリの言葉に狼は一度だけ瞬きをし、のしのしと工房内を歩き始める。あんずはラフィに乗り「２階へいくぞ～」と進んでいった。
「においが残っていればいいが……」
　刀は２匹を見て、祈るように呟く。ねむるも同感だと言わんばかりに呟くと２人もまた調査に戻る。その中で気になったのは、腐食具合だった。
「そっち床が抜けそうじゃない？」
「触った感じだとまだいけそうだが、時間の経過は怖いな」
　言っている傍からみしっ、と上から聞こえた気がする。２人はそれでも焦らずいこう、と誓い合った。
　刀は次に工具箱などを探した。そうしつつもあたりを見渡せば、コイン以外にも金属が落ちており、金床らしきものがおいてあるのを見つけた。また、ハンマーがいくつも並んでいる棚を見つけ、思わず息を飲んだ。
（ここは、鍛冶場だったのか？　これは坩堝ってやつか？）
　目の前にあった壷のような物を覗き込むと、ただ真っ暗なだけだった。だが、ここがかつてどんな場所だったのか、少しずつ分る気がした。

『推理は捗っていますか？』

　不意に声がした。振り返ると、いつの間にかエリオナイトが佇んでおり背中に冷たい汗が流れる。修羅場を潜り抜けてきた刀ではあるが、まったく気配を感じなかったのである。
「っ！？　エリオナイト！」
「悠長な事をしていると、下敷きになります。ご用心を」
　僅かに笑いながら言うエリオナイトは背中を見せると音も無く姿をくらます。刀の声で駆けつけたねむるだが、既に彼女の姿は無い。
「んー……何か言ってた？」
「なんか様子見って感じだったな。ぼやぼやしてたら本当にまずいことになるぞ」
　刀は肩をすくめ、ねむるは一人虚空を見る。そして、思いついたことが実行できたらどうなるんだろう、と思いながら刀の後を追った。

　狼に跨ったサキリは、ランタンの光を頼りに床や壁を見ていた。動かした形跡があるのならば、隠し扉などあるのではないかとにらんだのである。
　迂闊に触れて罠を作動させぬよう、慎重に動きながら手には愛用のナイフが握られている。瞬間移動が可能な己のろっこんを発動する為だ。
　水上桜はといえば念のためにボウガンを所持していた。倒壊した場所から魔物がでてこないとも限らない。サキリに背中を預けつつ、彼女もまた周囲に気を払っていた。
（私がオーブを隠すとしたら、物陰とか、分りづらい場所。かまどの奥とかにも隠しそうね。実際、さっきそこから１つ見つかっているし……）
　あちこち目をやっていると、彼女は物置台の下あたりが気になった。埃が積っているからか、こすれた跡が残っていたのだ。狼もくんくんとそのあたりのにおいを嗅いで引っかくような動作をする。
「あー……、これはビンゴかも」
　サキリがそういいつつ慎重に物置台をずらす。と、隠し扉があった。開けば罠などもなく黒い炎が揺れるオーブが鎮座している。お手柄だな、とサキリが言えば桜は僅かに照れる。

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