幕の内の内の内｜リアクション

幕の内の内の内

「さて、試食だ」
　一同は席について「いただきます」を言う。
　散々味見はしたはずだが、このように綺麗に盛られると、やはり何か違う。

　ひと口食べて、満月は頷く。
　味の方は、どれも合格点。細かい配慮がなされ、コンビニ弁当とは一線を画している。

「うん、旨い」卵ときんぴらを味わって、刀が言う。
　千歳が顔をほころばせる。そのあたりはだいぶバランスに気を配った。
「これ、明日の朝ご飯にも頼むよ」
「何言ってるの刀君。これ、幕の内弁当のおかずじゃない」
「いや、美味しいんだから仕方ないじゃん！」
「駄目です」
「食べさせてください！」手を合わせて懇願する刀。
　あちこちから笑い声が起こった。

　胡麻和えを口に運んで、理紗子は箸を止める。
　おいしい。だがそれ以上に、不思議な愛着を感じた。
　自分が胡麻和えを作るとしたら、このようになるだろう、というような……。
　拵えた衛守を、理紗子はちらりと見た。
　先ほど、自分のおにぎりをほめてくれた人。
　なんだか、彼が自分とすごく近い人間の様な気がした。

　お弁当や、作られたものは、時に外面よりも、その作った人間を雄弁に語る。

　一同から歓声が上がる。
　修のスイーツ幕の内。
　ふたを開けると、海面が揺らいだ。
　薄水色の透かし和紙“和紙網”を、海面の揺らぎに見立て、覆ったのだ。
　箸の代わりになるクリスタルのピック、その先端の王冠がきらめいた。
　落とさないようという工夫だったが、単に見た目としても粋な演出だ。
　涼しげな水面の底、深い濃紺の中に、いくつもの輝きが覗ける。
　人魚姫の深い憂愁さえ感じ取れそうだ。
「先輩のお弁当、美味しいですね！」早速つまみ上げた理沙が、わぁっと歓喜の声を上げる。「甘いモノが、特においしい！」
　あらゆるスイーツを制覇してきた無類のスイーツ好きをうならせるほどの、絶妙の甘さ。
　味、見た目、そしてさらにこだわりがあった。
　捨てるのは惜しい。持って帰って飾りたい。万一捨てるにしても、ストロー以外は全て可燃物。
エコへの徹底配慮である。
　コラボ企画のイメージアップとしても、これ以上ない素晴らしいアイデアの弁当だ。
　だが……。
　自分の製作した弁当を見て、しみじみ修は呟く。「かなりこれは、乙女的だな……」
　演劇のためと白熱して作ったお弁当だが、完成度ゆえになかなか気恥ずかしい。
　作っているとき「ウフッ」とか言っていなかっただろうか。
　お弁当にかぎらず、作られたものは、時に作った人間を雄弁に語る。
「ええい！　これも演劇祭のためだ！」いささかヤケ気味に苦笑する。

　そしてスイーツ班で、うっかり白熱してしまった人がもう一人。
　ミニチュアと見まがう、素晴らしい完成度のお菓子の家。
「僕のお弁当、やっぱり変だったかな……予算オーバーだし……」顔を赤らめ、俯く理沙。
「うぅ、ちょっと恥ずかしくなってきちゃったかな……」
「いや、悪くない」じっと見ながら、衛守は呟く。「ドライブインでも、こういうのは家族連れが喜ぶんだ」
　驚くなかれ彼は、他のメニューも全て自分で料理していた。効率性、調理しやすさも考慮に入れるためだが、さすがにこのお菓子の家は作れない。
「お祭りだから、こういうのがあってもいいだろう。コラボ効果で、意外な収益が見込めるかもしれない」修も頷く。「皆が喜んでくれると思うし」
　限定生産などの方法も考慮にいれて、検討することにした。

　ジャンクな路線に突っ走ったものも、手抜きはなく首尾一貫している。これはこれでアリだろう。お祭りだし。

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