【体育祭】七色のパン食い競争　白猫組サイド｜リアクション

【体育祭】七色のパン食い競争　白猫組サイド

【牛を愛でる者達】

「ズルしなくてよかった……」
　御剣刀くんはモーさんから全力で逃げるチームメイトを呆然と見つめて、ほっと胸を撫で下ろしました。
（桜崎、大丈夫かな……。まあ実行委員や先生達もいるから、滅多なことにはならないと思うけど）
　ちょっと心配な様子の刀くん。
　しかし、ひとまず彼女のぶんまで競技を戦いぬくことが先決と考え、刀くんは牛さんと向き合います。
「今日は俺達のためにわざわざ来てくれてありがとうな」
　牛さんに目線の高さをあわせ、労わるように静かな声で話しかけながら、刀くんは牛さんの頭を撫でてやります。
　そして長旅で汚れた身体を丁寧に拭いてやり、ブラシで毛並を綺麗に整えてあげてから、落ち着いて搾乳を開始します。

「……あの牛の動き、まさか神魂の仕業か？」
　灯斗南くんは『モーさん』の激しい追跡に一瞬事件かとも思いました。
（……でも、あの牛、ちゃんと観客席には飛び込まないように走ってるしなぁ……）
　よく訓練されたあの牛さんの様子を見る限り、事件性は低そうだと斗南くんは判断し、今は競技の完走を優先すべきだと考えました。
（じゃあひとまず牛に挨拶でもしてみようか）
　斗南くんは気持ちを切り替えて牛さんと無言のまま向かい合います。
「……」
「……」
　斗南くんは牛さんと何を喋っていいか、まったくわかりませんでした。
（……もういいや。普通に絞ろう）
　面倒くさそうに頭を振って、斗南くんはひざをついて牛さんの乳房に手を伸ばします。
　その刹那、
「……って、うおわあああっ！？」
　何か機嫌を損ねてしまったのか、危うく牛さんに蹴り殺されそうになったところをギリギリでかわす斗南くん。
「あ、危なかった……」
　一歩間違えたら死んでいたかもしれません。
　牛さんは不躾なものを見るような目で斗南くんを睨みつけています。
　どうやら無言で搾乳しようとしたのが気に入らなかったようで。
「……わ、悪かったよ」
　斗南くんはなだめるように言って、それからもう一度牛さんに感謝の意を示してから搾乳を開始します。
　今度は牛さんも暴れません。
（……しかし搾りたて、か。腹、下したりしないだろうな……）
　パン食い競争なら自分にもできるだろうと出場を決めた斗南くん。
　よもやこんな展開になるなどとは夢に思っておらず、若干の不安に身を包まれながらも、黙々と搾乳を続けます。

「意外と目とかつぶらで、モーって鳴き声とかもかわいいー」
　羽生碧南さんは想像していた以上に愛らしい容姿をしていた牛さんに嬉しい悲鳴をあげて近づいていました。
「おー、よしよし」
　あまりの可愛らしさに思わずなでなで。
　それから、
「可愛いねー。どーしたらそんなつぶらな瞳になれるのかしらねー」
　などとフレンドリーに話しかけつつ、コミュニケーションをとっていきます。
「はっ……！　いけない、このままじゃ体育祭が終わっちゃうわ……！」
　危うく我を忘れて、牛さんの世話に没頭してしまいそうになった碧南さん。
　意識をすんでのところで引き戻し、いよいよ乳搾りにとりかかります。
　早く出そうとして、痛くしたり、怒らせてはいけないと優しくマイペースで、彼女は乳を搾り続けます。

「牛さんは繊細ですから、優しく接してあげないといけませんわね」
　注意深く自分に言い聞かせるように呟きつつ、ティナ・フォルトゥスさんは牛さんに餌をあげていきます。
（乳搾りは初体験ですわ……。ええっと、確かこんな感じでしたかしら……？）
　試行錯誤しながら、ティナさんも自分のペースで牛乳を搾りとっていきます。