焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

　戦場は階段へと移行しようとしていた。
　購買部は二階。廊下を登りきったあとの直線コースは、ただの速力の勝負になる。
　ここでの逆転は難しい。
　階段が勝負をかけるポイントになるだろう。

　大きく息を吐いて、蛇那伊が跳躍する。

　鎧と見まがうほどに堅牢な肉体をまとった少年。
　彼は普段、繊細で温厚である。美を愛し、綺麗なもの、可愛いものを愛でる。
　柔和にして温厚、菩薩のようだと評される彼。

　しかし、今顔を上げたのは、そのような慈悲の心は持ち合わせない。
　修羅！
　ただ一体の修羅！

　先ほど渡り廊下で見せた優しさを、最後の一片までかなぐり捨てる。
　同時にその肉体は戦闘に特化、人間としての常識さえも軽々と踏み越えていく！

「今のアタシは、菩薩じゃなくて、修羅なんだから！」

　階段に殺到する集団は、そのとき驚くべきものを目にした。
　黒い巨大な影が、壁を蹴る。宙を舞う巨躯。その太い右腕が、手すりをがっちりととらえる。
　周囲の生徒を跳ね飛ばしながら、手すりの上で全身を回転させる。

　常識はずれの身体能力。
　あっという間に先頭に躍り出た彼は、さらに全身に揺らめく闘気をまとい、周囲を威圧する。

　変幻自在。化け物じみたスケールの動きに、一同は言葉を失う。
「人外……」誰かの囁きに、蛇那伊は壮絶な笑いをわらう。

「揃いの争奪戦で、普通の道なんか使ってらんないわよ！！」

　聖なる怪物！
　だが、彼は美しい！
　神速を誇る刀に、一切の隙を見せぬ、超絶の格闘能力。
　しかしそこに、野蛮なところ、下卑たところは一切ない。
　人間美の極致を体現したルネサンスの男神像……。
　正午の光を背後に、凄絶に荒れ狂うそれの姿は、神に似ていた。

　ろっこんを発動し、加速でかわそうとする刀は、

（くっ……！）

　蛇那伊の眼光に、底知れぬものを感じて身構える。
　中国医術の達人である蛇那伊。
　活殺拳という言葉もある。人体に通暁したものは、生死自在。
　まして刀の筋肉に特別な興味を持っていた蛇那伊だ。
　筋肉の脈動。
　息遣いの乱れ。
　心臓のパルス。
　全てが蛇那伊にキャッチされる。　
　衆人環視下の不完全なろっこんでは、却って手の内にはまる。