応援！　甲子園！｜リアクション

応援！　甲子園！

○夢のあと

　応援席では。
「負けた、か……」
（あーくそっ、何か俺が負けたわけじゃないのにちょっと泣きそうだ）
　本気で応援していた刀は思う。
（でも俺よりもあいつ等の方が何倍も沢山悔しいんだもんな）
　そして、思った以上に疲れていることに気づく。
（……熱くなったか）

「負けちゃった……野球部のみんな頑張ったのに。ううっ……わあああん」
　周りも気にせず実々が大泣きしていた。
「泣くな、来年があんぜ。ほら、ねこーひー牛乳やるから」
　灸が大相撲の力士みたいな声で、ねこーひー牛乳と自分のハンカチを差しだす。
「ぐすっ、はぁ……ありがと。泣いたって結果は変わらないね」
　顔をぬぐいながら実々が言った。
「野球部の所に行ってこよう、泣いたのばれちゃいそうだけどこのまま何も言わないで引っ込むわけにはいかないね」
　が、野球部員たちのほうが先に走ってきて一斉に帽子を取った。
「ありがとうございました！」
　実々はドキドキしながら挨拶する。
「えっと、あの、お疲れ様でした！　みみ……じゃなくて私、皆さんを応援出来てよかったです！」
　カッコいい言葉でもないけど言っておきたかった挨拶を述べる。
「あ……また泣けてきちゃった」
　一方灸には、応援団の禁を破り同点の際溜息をついてしまったことで、アフロ風呂の懲罰が待っていた。
　　
　アフロ風呂……それは寝子高応援団に伝わる、禁を破った者への懲罰。
　その起源は、戦国時代まで逆上る。
　その昔、己の油断により城に火を放たれ、大敗した城主がいた。
　業火によりアフロヘアと化した武将は、反省の意味を込めて川に飛び込んだという。
　その故事にならい、水を張った金ダライが用意される。
「アフロ風呂の第一号になるとは、痛恨の極みだぜ……」
　アフロヘアのカツラをかぶりパンツ一丁で金ダライに入る灸。
　他校の生徒たちにも、指を指して笑われてしまった。
「アフロでなきゃ水風呂は気持ちいいんだがなあ……」
　恥ずかしくてそそくさと水から上がる灸。
　その様子に実々の涙も止まったようだ。少し笑顔が浮かぶ。
（ま、いいか）
　灸は気持ちを切り替えることにした。
　「さあ、帰ったら来年のために特訓開始だぜ！　と、その前に。黒崎センセ、帰りにみんなでラーメンでも食ってこうぜ！」
　それを聞いて、刀も腹が減ったことに気づいた。

「惜しかったが、本当に素晴らしい試合だった。生徒たちを誇りに思います」
　校長に正式なコメントを貰った修は、それを持って選手たちの出口で出待ちしていた。
　胸張って帰れるように甲子園にこれた喜びと労いの言葉を伝え、そのまま試合後のインタビューだ。
　今後の抱負も聞きたい。
　監督の姿が見えた。
「本当にお疲れ様でした！」
　心から頭を下げる修だった。
　選手たちの一部には疲れの色も見えたが、貴重な点を叩きだした源太郎は相変わらず元気だった。
「抱負はもちろん選抜や。ここからはじまるんやで。わしらの甲子園はな」

　取材を終え、修はビデオをしまいながら言った。
「椿、明石焼きかお好み焼きの店でも寄るか？」
「お疲れさまでした。明石焼き、食べたいです～」
　明石焼きとは、兵庫県明石市名物のたこ焼きに似た粉物料理で「玉子焼き」とも呼ばれる。
「生地がやや柔らかく、具はたこ以外には何も入れないのがたこ焼きとの違いだ。ソースの代わりに冷たいだし汁に付けて食べる」
「本場の味、楽しみです♪」
　取材の疲れもあるが、美味しい明石焼きを食べれば元気が出ることだろう。

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