応援！　甲子園！｜リアクション

応援！　甲子園！

○最後まで諦めずに

「ん？　投手が変わったか」
　相手の攻撃を無難に抑え、再び寝子高の攻撃。
「１年生投手ですが、県大会では２回しか投げてません」
　ひびきの報告に、監督が難しい表情になる。
（……あの選手のデータはあんまねぇか。でも、データばっかに頼ってる訳にはいかねぇ！
気合で……気持ちで負けてたら勝てる試合も勝てねぇんだよ！）
　武蔵は心の中で呟いた。
「大丈夫、みんななら行けるよ！」
　ひびきも激励する。
　そしてちらっと監督のズボンのお尻に目をやる。
（破けてたら縫ってあげなきゃ。全国に注目されてるんだし）
　幸い桐島のお尻は無事のようだ。

「ここからは俺の実力勝負……負けてられるかよ！！」
　武蔵は踏ん張った。甲子園に来てから、今までの練習が生きてきたこと、自分の成長を感じている。
　しかしうまくタイミングが合わず、点が取れない。
　そして相手打線が投手を捕らえる。
「ど、同点……？」
　美咲紀の声が上ずる。
「大丈夫だ、直ぐに取り戻せよ！」
　刀が声を上げる。
　ブラスバンドが演奏を始めた「寝子高裏校歌」に乗って、
　気持ちが落ち込まないよう殴りつけるように手を振って応援する。
「♪　ここは寝子島、マジでよい島、セーイ？」
「こ……」
　一緒に歌おうとした灸の声が出ない。
（大声出しすぎたか？　肝心なときにこれかよ、くそお！）
「相手も強豪、そう簡単にはいかないね」
　表情を変えない校長。
「そうですね。振りだしに戻りましたが、これから頑張ってほしいものです」
　解説者のような口調になっているが、修も本当にそう願っていた。

　だが、頑張りも空しく。
　９回表に相手のクリーンナップが寝子高ピッチャーを捕え、ランナーが還ってしまった。
「逆転……！」　
　応援席から悲鳴があがる。
（畜生……！）
　思わずため息を漏らし肩を落とす灸。
「ママキュー、だめだよ、応援団は胸を張ってなきゃ！」
　実々の言葉にはっと我に返る灸。
（俺としたことが……とんだ失態だぜ。勝負はこれからだよな）
　刀も諦めない。
「勝て！　９回ツーアウトからが本番なんだろ！　ホームラン打てば同点だろ！　いけっ！」
　と、気持ちで負けるなと言わんばかりに声を張り上げる。
「押忍！　打倒！　打倒！」
「ダットーーーーー！」
　枯れた声を必死で絞り出す灸。

　寝子島でも智瑜が胸の前で両手を組み合わせてＴＶを見つめていた。
「先生、力が入ってるようですけど、ズボンの破れは大丈夫でしょうか……」
　自分が、あの場にいられたらいいのに。

　寝子島打線は最後まで踏ん張った。
　だが奇跡は起こらなかった。
　試合終了のサイレンが響き渡る。
「頑張ったね」
　ひびきが、笑顔で飲み物とタオルを差しだす。
「武蔵、ええプレイやったで。来年、いや春もまたここに来るで、かならずや」
　ピッチャーを労った源太郎が武蔵の肩を叩いた。
（負けちまったのは悔しい、山路先輩に優勝させてあげれなかったのは悔いが残る……）
　そんな言葉を心の中で噛みしめながら、武蔵は言う。
「俺……もっと強くなるぜ……もう誰にも負けねぇバッターになる」
　自分は今怖い顔をしてるんだろうな、と武蔵は思う。
（殺気走ってるって言われようが関係ねぇ）
「甲子園は一校を除いて、全部の高校が一度だけ負けるの。でも、悔しいよ、悔しいよ」
　笑顔を見せていたひびきの目から、涙が溢れる。
　思わず桐島先生に抱き付いて、嗚咽を漏らすひびき。
「みんなよく頑張ったな。これは選抜に向けてのスタートだ」
「はい！」
　桐島の言葉に、皆が頷く。
「選抜に向けてのスタート……そうだね、そうだね……」
　顔を上げ、桐島から離れてひびきは言う。
「わかったら帰る支度せぇ、今日、思い知ったことぜんぶせたろうて、血にして、肉にして、わしらは前に進むんや」
　源太郎がウィンクする。
「あっ、抱きついて泣いた事は内緒にしてくださいっ」
　桐島が頷くと、ひびきは選手たちに向き直った。
「さ、皆、寝子島に帰ろ」
　

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