紅い玉がでるまで｜リアクション

紅い玉がでるまで

　その時刻、しおりは観覧車へ。
　寝子島で、思いつく限りもっとも高いところ。
　
　マーブルチョコを食べながら、彼女は街を凝視する。
　ここに至るまでも、彼女はさまざまな感情を味わった。
　喜びの黄には、チョコの甘さ。
　憂いの緑には、夏休みの終わり。
　怒りの青には、宿題を遺した過去の自分。

　いろいろな感情に、自分の風景を乗せ、そして彼女は全ての光景を見たいと願う。

　西の風が、潮の香りを孕む。
　誰もかれも熱狂し、ゆく夏を惜しんで、心を燃やす。

　ねこったーでの、誰かの呟き。
　それは爆発的に、皆の間に広まった。
　平穏の黄。歓喜の橙。それ以上の、満足。
　寝子島の夏をしめくくるにふさわしい、心からの感動が「紅い色」の条件だ！
　

　もっと、もっと！

　紅がでるまで！

　そうして、シーサイドタウンの一角から、まるで光の滲みでるように。
　紅い色が生まれた。

　ニューロンには、感情を真似て、鏡のような働きをするものもあるらしい。
　大きな喜びは、共有され、もっと大きな喜びに。
　諧調を描いて、紅い色が広がっていく。

「やった！」ガッツポーズをとるしおりの口からも、紅い玉が。
　観覧車の窓を飛び越え、薄暮の彼方に消え去っていく。
　本当に、夏も終わりだ。
　始業式も近い。

「あ……数学の宿題」がっくりとゴンドラでうなだれるしおり。

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