紅い玉がでるまで｜リアクション

紅い玉がでるまで

　時同じくして、修は海を見渡せる崖の上にいた。
　その傍らには、大量の玉が入った袋。
　惜しくも「紅い玉」は出なかったが、それでも無数の玉は集まった。

　おぼろげながらに、修も「紅い玉」の出現条件には思い至っていた。
　だが、あせる必要はない。
　大事なのは仮説と検証。間違いない、自分の結論にたどり着くため。

　あとは最後の実験。
　これらをすべて混ぜ合わせたら、何が起こるだろう。
　万色の感情を集中して混ぜたら、どんな作用が俺におきるのだろう。

　加法混合。混沌の黒か。減法混合。純粋な白か。

　彼を動かすのは意志。記憶も感情も、すべての正体を見極めようとする、純粋な意志だ。
　修は、それを自分の身で試そうとしていた。

「さあ、試そう……」

　そこに現れるのはナイスゲイ！
　フィーバー！　おびただしい玉が、その口から溢れだす。
　美少年ねらうその姿は、もはや異次元の獣のように見える。
　獣の目が、修の姿をとらえた。
　以前、公衆の面前でパンツ一丁にさせられた。忘れない。恥ずかしかった。でも嫌いじゃない。
「積極的イケメン！」
　潮騒をバックに、晴嵐の鴉のごとく、ナイスゲイが天高く舞った！

　反射的にかわす修は、逆手を突き出す。
　ずり。
　ナイスゲイのセクシーな薄物を、修の手は容赦なくはぎ取った。

　宙を舞う男の全裸。
　放物線のその先には、崖底。
　
　奈落に逆落としになるナイスゲイ。
　それでも顔は笑顔に満ちて。

「悦楽昇天心中よーん！！」

　口からあふれ出た玉は、暮れなずむ残光に煌めいて、一瞬黄金色かと見えた。
　
　ゴールデンボール。
　厳密な法則を突き破って、ナイスゲイの情熱は玉を黄金に染めたのだ。
　神も、女の心を持つこの男性の純情を哀れと思ったか。

　この世界を回すのは、法則などであるはずはない！　地球を動かすのは、屹度愛だ！

　突風にあおられ、不意によろめく修。
　踵が、袋を弾き飛ばした。
　どさりとあふれ出す大量の玉。
　あるいは海へ、あるいは海岸を転がって、他の玉と合流する。

　あらゆる感情が行きかう。
　寝子島全体が、ドキドキしている！

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