紅い玉がでるまで｜リアクション

紅い玉がでるまで

　海浜公園から見下ろすしおりは、歓声を上げた。
　すごいすごい！
　まるで夜光虫の様に、たくさんの光が揺らめいている。
　暗く濁った光の中に、緩やかな幸せオーラあるれるレモン色が尾を引いて流れていく。
　ケータイを取り出し、画像を集める。
　それをねこったーへ。たくさんの人に共有してほしい！
　そして一際強く、オレンジの光を煌めかせる一角があった。
　もっと、もっと高いところは……。

　シーサイドタウン。
　街角に夕映えが訪れても、熱気は消え去らない。
　みんなダンスし、歌い、笑っている。
　あふれ出るたくさんの玉。悲しい色も、明るい色も。
　凛と智は巧みに玉を操って、様々な音楽を奏でていく。
　言葉はなくても通じる。高ぶる気持ち。暖かなパッション。
　二人は、感情の玉を楽器として使いこなしていた。

（……きっと、大丈夫。
　いろんな色の玉に触れているうち、僕の玉の色も明るくなってきた。
　僕も明るくなった気がした！）

　そういえば、暗くても明るくても、優しい穏やかな色の玉が多かった。
　この島には、優しい人が多いのかも。

（もうすぐ新学期、楽しいこと、あるといいな）

　そんな彼を目ざとく見つけるナイスゲイ！
　不器用な男前も好みだが、ナイーブな少年もバッチコイだ。
「貴方のサックス、吹きまくりたいわ～ん！」

　飛びかかるナイスゲイを、踊り狂う少年の脚がジャストミートする。
　散水塔に頭から激突する。
　噴水を噴き上げ口からあふれ出るのは情熱の橙。
　差し出された手は、何か掴むように、指先を蠢かせる。

　研ぎ澄まされた五感は、ナイスゲイに次なる美少年を察知させる。
（やはり、アタシの行き着く先は、あのイケメン……）
　俊敏な獣と化して、ナイスゲイは黄昏の迫る街を疾走する。

　人いきれの中に、小萩もいた。
　たまたまさわった、ねこったー。その力で、こんな不思議なお祭り騒ぎに出会えた！
「やっぱり小萩は天才なのです！」ガッツポーズをとる小萩。その口から、エネルギッシュな橙の玉が飛び出す。

　そして、幸せオーラをあたりに振りまきながら、心花さんがやってきた。
　熱気が収まり、穏やかな時間がようやく訪れようとしていた。

　あとからついてきた誠也は、やっとつかみとった自分の玉を、天高く放った。
　誰かに届くように。誰かに伝わるように。
　その顔はいつもの無表情。だがどこかさわやかで、陰りがない。

　凛は立ち止まり、智を見た。
　もう、この時間も終わりに近い。
　最後に一曲、メジャーな奴を……。

　不意に二人の頭に、ある曲のタイトルが閃いた。
　なぜだろう。理由もなく、その曲がとてもふさわしい気がした。

　漂う夕暮れの光に、テナーサックスの音が混じった気がした。

　凛はすっと息を吸い込み、まるで映画のヒロインの様に歌い始めた。

（どこか……

　――の彼方へ――）