【決戦は星ヶ丘マリーナ！・２】

　竜神が納を抱きかかえながら逃走し、角を曲がった先に３人の少女と出くわした。
「あら、竜司君、ごきげんよう」
　静かな凄みを効かせながら、芽森 菜々緒が微笑みかける。
『えっと、確か冴木先輩ですよね？　パンツ作りでお見掛けしました』
　浅山 小淋はピンクスーツの龍神を見てたじろぎながら筆談を続ける。
『なんで、裸のおじいさんを抱きかかえているんですか？』
『それに、おじいさん？　そのガムみたいに噛んでいるのは、もしかして……？』
「たしか、支援部部長の浅山だったか？　って、俺はPEC隊員の龍神様だ！　そして、この方は俺の師匠だ！」
「筆談のお嬢ちゃん、ワシが食べているのはパンツじゃよ？」
　納は口から唾液まみれの女性用パンティーをぬるりっと取り出した。
　浅山は声が出ないが、口を大きく開けて３人目の少女の影に隠れてしまう。
「……うわぁ、ドン引きするほどの変態だな！」
「うわ、やっべぇ、超可愛い！　芽森先輩のお友達ですか？　って、その口調、もしかして……」
　涼しげなレースをあしらった純白のワンピースとヒールサンダルに麦わら帽子。
　どっからどう見ても、上品な深窓の令嬢（バカンスVer.）の格好の彼女。
　しかし、その赤い瞳と口調に龍神は覚えがあった。
「8組の、霧生？　トリエンナーレでライブやってたよな？」
「うわぁぁ！　なんでバレた！？」
　霧生 深雪、現在、変態へのデコイとして女装中である。
　だが、龍神は己の変態眼力で女装を見破ってしまった。
「喋り口調がまんま男だしなー。あとガニ股は頂けねぇぜ！」
「俺は男だから仕方がねぇだろ！」
　霧生が吠える。
「あら、さすが竜司君。あっさり見破られちゃったわね……」
『私もここまで霧生先輩のクオリティが高いなんて思っていませんでしたから、バレたのは驚きですね（汗）』
　菜々緒と浅山は、呑気に霧生を盾にして変態の魔手から遠ざかろうと必死だ。
「お前らなぁ……。まぁ、守るって言ったのは俺だしな！」
　霧生は変態２人にメンチ切って凄んだ。
「おい変態ども！　今、俺は虫の居所が悪いんだ。怪我したくなかったら、大人しくお縄につけよ？」
「お断りします！」
　龍神は師匠を霧生に向けてパージ！
「パンツ食わせるんじゃー！」
　納が霧生のパンツを神速でずり下ろすと、一口で口内へ放り込んだ。
「むぅ？　コヤツのパンツ、幼女といちゃついた臭がする！　幼女の匂いおいちいい！！」
「うわぁぁぁ！　俺のパンツ！」
　霧生は納をビンタしてパンツを吐き出させようと試みるが、なかなか吐き出さない。
　結果、全裸の老人に往復ビンタする女装子という、希に見るカオスが爆誕した。
「芽森先輩！　浅山！　お願いです、レインボーパンツを穿いていたらスカートめくって見せて下さい！」
　龍神の綺麗な土下座は、女子２人のツインシュートで阻止された。
「どいひーっ！」
　転がる龍神の顔面を菜々緒がヒールサンダルで踏み込んだ。
「まさか、レインボーパンツ製作者の貴方がそんなこと言い出すなんて、暑さで脳味噌沸騰しちゃったのかしら？」
『レインボーパンツの製作者って、冴木先輩だったのですか！？』
　またしても衝撃の事実！
「俺はパンツ作りに目覚めてしまって……、今まで至高のパンツを求めて作り続けてきたんだ……」
　顔面を踏み込まれる龍神が弁解する。
「そして最高傑作『レインボーパンツ』シリーズが、下着メーカーに認められて一般流通の目処までたったんだ！　７枚集めるというコレクター心を刺激するあのパンツ、こんな騒動で不意にしたくねぇ！」
「残念だけど、あれ盗まれたのよ。一応聞くけど、貴方たちの仲間の仕業？」
　菜々緒の拷問は更に続く。
「違う！　だから俺もパンツを探してたんだ！　って、なぜだ？　ヒールの食い込み加減が、気持ち、イイ！　ゴイスー！　これゴイスー！」
　冴木、ドMに目覚めてしまった。
「エロってのは誰でも構わないってわけじゃないだろ？　好きな人とかだからドキドキしたりするもんなんじゃねぇの。冴木の情熱はすげーけど、そういうの間違ってる気がするって何言ってんだ俺……」
　納に逆エビ固めを決めながら、霧生は遠い目をしていた。
『その、そういうエッチな事は分かりませんが…人に迷惑をかけてまでやるのは間違ってると思います。だからもう終わりにしましょう？』
　顔面に足型がくっきり付いた冴木は肩を落として頭を下げた。
「反省します。でも……」
　龍神はカッと目を見開いた。
「この龍神！　ロリもおっぱいも……パンツだって愛してるぜー！」
　筋力を強化し、繰り出される俊足で巻き起こる突風、秘儀『エアスカートめくり』を放った！
　浅山はスカート抑えて難を逃れた。
　しかし、無防備だった菜々緒と霧生のスカートは御開帳する。
「２人とも、白い、だと……？」
　冴木は２人の驚きの白さに目を見張った。
　そこへやってくるお面ガール。
「ドーモ、ナナオ。ワリタリーヌ・ゴールドナッツ・パックリーだよ」
　桜庭 円の修羅姿、ワリタリーヌさんがお辞儀をした。
　ぬらり、と殺気を放出して龍神に狙いを定める。
「男女問わず、丸出しにした上に色素を確認する変態をボクは許さない」
「出たな、ワリタリーヌさん！　俺は負けないぜ！」
　龍神はスーツを脱ぐと、褌姿に早変わり！
「鉄板入り褌ならクルミは割れまい！」
　勝ち誇る竜神に、ワリタリーヌはトンファーを構える。
「それじゃ、ボクはキミの、そこ以外を粉砕する！」
　ボクシングスタイルのインファイトで、巧みにトンファーを龍神の股間以外に素早く叩き込んだ！
「ギャーッス！」
　龍神、秒殺。ナムサン！
「ナナオ、あっちに７枚のパンツを被った男が向かっていった！」
「！？」
　菜々緒は浅山と霧生を見遣る。
　２人は無言で頷いてくれた。
　行け、と。
　こうして、修羅２人が波止場へ向かう。