あやかしスキーツアー｜リアクション

あやかしスキーツアー

☆二日目

　一晩寝て食事を済ませた信彦は、二日目も雪女のスタッフに話しかけていました。
「この仕事って楽しいかい？　もしかしていい男が来たら凍らせたくなったりするのかな？」
「ふふ、凍らせてあげましょうか？　……冗談ですよ。そんなことより恋人さんたちをいい雰囲気にしたりするのが楽しいです。人間の恋愛ドラマを見て研究したりもするんですよ」
　警戒を解いてくれたのか、笑顔を見せる雪女と、信彦はさりげなく距離を詰めます。
「そりゃあ仕事熱心だねえ。そうだ、俺と実践してみるってのはどうかな。きっと参考になるよ」
「うふふ……私と長く一緒にいると、風邪をひいてしまうかもしれませんよ」
「ダイジョーブ！　レディへの愛と情熱が心に燃える限り、そんなのヘッチャラさー」
（……たぶん）
　信彦とて一抹の不安がないわけではないのですが。
　そんなことを恐れてレディの手を取らないのは、紳士の名折れだと思うのでした。
「ロッジでお茶でもどうかな？」
　そう誘った信彦に、雪女は小さく頷きました。

「……幽霊ロッジ？」　
「昔ここで殺人があったんですって、怖いですね」
「レディ、俺がついてるから大丈夫だよ」　
　優しく寄り添いながら信彦は思います。
（クールなオネーサンって素敵だけど、怖がりな雪女さんなんてそれはそれでギャップがあって良いかも？）
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
　胸に包丁を刺した青ざめたお姉さんがやってきて、ちょっとドキドキしながら信彦は熱いお茶を頼むことにしました。
「雪女のオネーサンは飲み物は？」
「私も温かいお茶を。寒がりなんです」
「それはギャップ萌えだね！」

　二日目も綾花は、珪先生と二人でスキーを楽しんでいました。
「吹雪いてきましたね」
　しかし山の上で空模様が怪しくなり、吹雪が強くなってきました。
「あんなところにかまくらが……珪先生、避難しましょう」
「そうだね……雪よけくらいにはなるだろう」
　小さなかまくらの中、綾花は珪先生に寄り添います。
「寒くないかい？」
「大丈夫です……吹雪が止むまで待っていましょう」
　そう言いつつも、少し指先が冷えているのを感じていました。
（珪先生は大丈夫でしょうか）
　聞いてみようかと口を開きかけた時。
　ぬっ。
　かまくらの入り口に毛むくじゃらの雪男が現れました！
「きゃっ！」
　びっくりして珪先生にしがみつく綾花。
「こりゃ失礼しました。スキー場スタッフの雪男です、大丈夫ですか」
　そう名乗られてホッとしました。
「探しに来てくれたんですね。有り難うございます」
　珪先生の方に振り向くと、思いがけず顔が近くて顔から火が出そうになりました。
「血色がよくなってきたね、よかった。不安だったろう？」
　気遣ってくれる先生に、綾花は笑顔を向けました。
「珪先生と一緒だから心細さは無かったです」

　無事下まで降りて、着替えた綾花は遭難で冷えた体を温めたくなりました。
「温泉で温まってはいかがですか？」
　スタッフに言われ浴衣を着て教わったほうへ向かうと、珪先生にばったり。
「えっ？　……もしかして、ここって混浴ですか？」
　慌てる綾花。
「脱衣所は別々みたいだけど……僕は綾辻さんが上がったら入ることにしよう」　
「……だめです、珪先生だって冷えてるんですから、風邪ひいちゃいます。一緒に……」
　思わずそう言って、綾花は赤くなりました。
「水着ありますよー」
　そう声をかけられて、問題は解決したのですが。
「混浴というか人もあやかしも一緒に入る温泉みたいですね」
「色々ありましたけど楽しかったです」
　いろんなあやかしたちと共に、綾花と珪先生は水着を着て心から温まることができました。

「色々ありましたけど楽しかったです」
　また来たいですね、と帰りに綾花は珪先生に囁いたのでした。

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