あやかしスキーツアー｜リアクション

あやかしスキーツアー

☆一夜目

「……あっ、もう着くみたいだね」
　闇の中、どこをどう走ったのか、柚春はウォルターとのおしゃべりに夢中になって覚えていませんでした。
　とにかくバスの扉は開き、乗っていた皆が雪の中へ降り立ちます。

「ようこそあやかしスキー場へ♪　私はスタッフの雪女です。パンフレットをどうぞ。簡単に説明しますね……」
　色白なスタッフのお姉さんが声をかけてくれて、パンフレットを受け取り、説明を受けました。
「スキー板は付喪神ですので、話してみて相性のいい子を選んでみてください。何か質問はありますか？」
　スタッフの問いかけに、信彦が勢いよく手を上げました。
「俺は雪女さんと話したいな。きっと相性はバッチリさ！　まずはお茶でも……」
　しかし苦笑したスタッフに、
「ごめんなさい、仕事中なので……」
　あっさり断られてしまいました。
　けれど信彦はそんなことではめげません。
「それじゃ、仕事が終わるまで待つよ！　仕事なら俺に、スキー場の案内をしてくれないかな？」
「……ずっとはついていられませんよ？」

「まずウェアを決めましょう」
　綾花は珪先生とともにウェアとスキー板をレンタルに向かいました。
「レンタルウェアは先生と色をお揃いにしたいです」
「いいのかい？　綾辻さんが好きなものを選んでいいんだよ」　
「珪先生と一緒がいいんです。赤と黒がいいですか？　いいのがあるといいですね」
「こちらなんかいかがでしょう？」
　雪女のスタッフが赤と白のおそろいのウェアを持ってきてくれました。
「綾辻さんに似合いそうだね」
「……そうですか？」
　嬉しくなった綾花ですが、やはり珪先生のウェアにはこだわりたくて迷います。
「あ、でも珪先生にはこちらが似合うかも……」
　いろいろ眺めて、結局二人は赤と白のウェアを選びました。

　信彦は雪女のスタッフに話しかけていました。
「俺も君とおそろいのウェアがいいなー」
「従業員用のものになってしまいますから、おそろいは無理です」
「うーん、それは残念」

「星がきれいですね」
　満点の星空を眺めながら、綾花と珪先生はリフトに乗り、スキーを楽しむのでした。

　まゆらは、レンタルのスキー板にやたらに話しかけられていました。
「お姉さん何やってんの？」
　と聞かれたので、
「声優の卵よ」
　と言ったら。
「ほんとに？　うわあ、アニメの役やってるの？」
スキー板は、大興奮で身をよじり始めました。
「アニメ知ってるの？」
　驚いて聞いてみると、
「前の持ち主はアニオタだったんだよね。何かやってみせてよ～」
「何かって言われても……」　
　そう言いつつも、まゆらの頭にはセリフが浮かんでいます。
「……ミスティックアリアでいい？」
「ミスティ？！　聞きたい！」
　それじゃ、とまゆらは息を吸い込んでポーズを決めます。
「クラウン装着！　エナジー全開……光よ！」
「最高ッス！　テンション上がった！　行くよー！」
　スキー板は大喜びで、まゆらを乗せて滑り出しました。
「あっ、待って！　私スキーできないんだった」
　今更気づいて焦るまゆらですが。
「大丈夫、任せて！」
　スキー板の付喪神がうまく滑ってくれて、バランスを崩すこともなく快適にスキーは進んでいきました。
「すごい！　はじめてなのに楽しい！」
「それじゃ、サービスで超絶トリックをキメちゃうよ♪」
「えーっ？」
　気が付けばまゆらの体は宙に舞っており。
　見事一回転して着地成功！
「スキーって楽しい！」
「そうだろ？　ミスティちゃんの声で言ってみて～」
　こうして一日中滑り倒したのでした。

　ロッジに戻ったまゆらは、ねこまんま定食とキャンドルアヒージョを注文しました。
「今日は疲れたー」
　おなかがすいたせいもありますが、霊界の食事はなかなか美味しく。
　満足しながら、今夜はぐっすり眠れそうだとまゆらは思うのでした。

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