あやかしスキーツアー｜リアクション

あやかしスキーツアー

「不思議設定な企画番組だよね？　カメラとマイクがついたスキー板なんて」
　柚春はスキー板が生きてるなんて思ってもいません。
「お気になさらず、楽しんでください」
　女性の声の板は、そう言って黙ってしまいました。

「リフトはあれかな。行こう、ウォルターさん！」
　リフトは屋根も壁もなく、腰かけるタイプ。
「落ちないよね……」
　ちょっとドキドキしながら、柚春はウォルターと共にリフトに乗り込みました。
「わ、揺れる」
　風もないのにリフトが揺れて、柚春は自然とウォルターにつかまります。
「落ちたら探しに行くのが大変そうだねぇ」
「やだ、離さないで」
　揺れるリフトの上で、ウォルターにしがみつく柚春。
「しょうがないねぇ、もう着くよ」　
「あ、うん……」

　リフトから降りていざ滑ろうとしたが、柚春の視界が揺らぎました。
「……どうかした？」
　座り込んだ柚春にウォルターが声をかけます。
「ちょっと立ちくらみ……楽しみすぎてあまり眠れなかったのに、バスでもお喋りではしゃいじゃって休まなかったからかな」
「……戻って休むかい？」
　ウォルターが柚春の顔を覗き込んで。
「たいしたことないよ……でもちょっと邪魔にならないところで休んでから滑るね。僕は格好良いウォルターさんが見られたら十分だよ」
　弱弱しく笑みを浮かべる柚春。
「でも一緒に滑りたかったな……」
　そんな様子を見て、ウォルターは少し考えているようでしたが。
　やにわに柚春に背中を向け、後ろに向けて手を差し出しました。
「……え？」
　ぼんやり受け答えしていた柚春は、目を見開きました。
「おんぶするから乗って」
「え、いや、なんで……？」
「休むなら温かいところがいいだろう？」
「って、それはそうだけど……まさか、そのまま滑る気？」

　体調が悪いのも寒いのも確かで、断る理由もなく。
　柚春はウォルターに体を預けました。
「……重くない？」
「警察官を目指したこともあるからねぇ、これくらいは」
（僕を背負いながら颯爽と滑るワット格好良すぎでしょ！）
　この時間がずっと続ければいい。
　ウォルターのぬくもりを感じながらそう思う柚春でしたが。
（……にしても、下までこんなに距離あったっけ？）
　ふと目を上げると、前方に白い女性の姿がありました。
（雪女さん……？　誘導してくれてる？）

　雪女に合わせて止まったウォルターの前には、小屋がありました。
　扉を開き、手招きする雪女に軽く頭を下げ、ウォルターは柚春を小屋へ運びます。
　小屋は無人のようです。
（混んでると人酔いすると思ったのかな？）
　お礼を言いたいと思って探しましたが、もう雪女の姿は見えなくなっていました。

　ストーブや毛布、それにお湯の入ったポット。
　小屋には温まるための道具はいっぱいありました。
　暖かいお茶を飲みながら、柚春は体調が良くなるまでワットとお喋りしました。
「あれ？　こんなところにお菓子があったっけ？　食糧も……」
　さっきまでなかったように思える、お菓子やレトルト食品を見て柚春は首をかしげましたが。
「ここにあるなら、もらっていいんじゃないかなぁ」
　ウォルターの言葉に頷いて、ありがたく二人でパッキーをいただきました。
「もう元気になりました。戻りましょう」
　暗くなる前に戻ろうとした二人ですが。
「あれ、ちょっと吹雪いてきた……やっぱり山の天気は変わりやすいんだね？」
「どうするかな」
　戸口で考えるウォルターに、柚春は言いました。
「もしここで一晩過ごすことになっても、ワットと一緒だから平気だよ」
　しかしウォルターは珍しく眉間にしわを寄せるのでした。
「うーん、僕はあんまり平気じゃないかなぁ」
「ええっ？」
　柚春の額に、ウォルターの大きな手が当てられました。
「君の体調がいいときならまだしもねぇ」

　幸い（？）吹雪はやみ、柚春はウォルターに背負われて戻ることになったのでした。
　スキー板から、切ないラブソングが聞こえてきました。

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