あやかしスキーツアー｜リアクション

あやかしスキーツアー

「まずは食事処で休憩しよう」
　修はあおいに声をかけました。
「スキーに行かなくていいの？」
　スキー場へ向かう人たちを見ながらあおいは首をかしげますが。
「スキーは明日思う存分滑ろう。寒い夜にいきなり運動するより、美味しいものを食べてゆっくり休むほうが理にかなっている」
「確かにそうだね」
　二人はショーケースに並んだスイーツの品定めを楽しみます。
「なんだか見たこともないのがあるんだけど……」
　目を丸くするあおいに、修は言います。
「焼き芋スイーツにしないか？　あおい、好きだろう？」
　見知った食材からなら霊界食も入りやすいだろう、と考える修です。
「そうだね、じゃあそれと蛍光ソーダにしようかな、すごく綺麗」
「俺は霊界ミント味にしよう」

　しばらく待つと、雪女のウェイトレスが注文の品を運んできました。
「すごい、ほんとに蛍の光が舞ってる！」
　しかし目を凝らしてみても、虫の姿はありません。
「可愛いな」
　目を輝かせるあおいに、小霊かな、と思いながら修は微笑みを向けます。
「いただきます。……あ、このスイーツ美味しい！」
「気に入ったならよかった。追加で仙桃ロールを取ってシェアしないか」
「うん！」
　蛍光はソーダから飛び出して周りを舞い、歌を奏で始めました。
「不思議だね……」
　蛍光に照らされるあおいの顔を見ながら、幸せだな、と修はじんわり思うのでした。
　蛍光はふわふわとあおいの髪について、髪飾りのように光るのでした。

　二日目を迎えたスキー場で、修はあおいとウェアと板を選びました。
「……これがいいな。思う存分滑ろう」
「うん」
　リフトへ向かおうとしたあおいを、修は呼び止めます。
「いや、さっき聞いたんだが妖ブーストというのが使えるらしい。リフトじゃなくで滑って戻ろう」
「あっ、滑って登れる、っていうのだね」
　半信半疑だったらしいあおいですが、修は初めての体験にわくわくしていました。
「それじゃ、いきますよ」　
　声をかけた付喪神のスキー板に、頷くと。
　ブオヲオオー！
　ジェットエンジンでもついているかのように、スキー板が加速しゲレンデを上り始めました。
「登りのスキーとかありえなさすぎだな」
　楽しさに笑みがこぼれます。
　しかしすごいスピードで登っていくので風の音が大きく、この声はあおいに届いていないだろう、と修は判断しました。
（風が消してくれるから、照れずに言えるな）
　そう思った修は、風に声をのせるように告げました。
「あおい、好きだ。大好きだよ」

　しかし修は気づきませんでした。
　昨夜の蛍光がまだあおいに憑いていて、聞こえないはずの声を届けていることを。
「……、……」
　一瞬、あおいが何か言っている口の動きが見えました。
「……え？　なんて？」
　言葉は風に飛ばされ、修の耳には届きませんでした。
　けれどあおいはとてもいい笑顔をしていて。
　それだけでいいのかもしれない、と修は思うのでした。

　

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