Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

「お、なんかいい雰囲気だな。まさか抜け駆けしてねぇよな？」
　タイミングを見計らって典町託志が席に戻ってくる。
「お、なんだもう戻ってきちまったのか」
　貞広護堂は「やることはやった」という気持ちを込めて軽口を叩いた。
「え、」
　いきなりの話で憂子は先とは違う意味で目を丸くしている。
「いやな、アンタくらいの美人なら、他の誰もほっとかねぇっていう話だよ！」
　護堂がにかっと笑う。
「そうだぜ。なんなら俺とかどーよ？　俺だってフリーだぜ？」
　託志がそれに乗っかる形で憂子に言い寄った。憂子は恥ずかしいやら照れくさいやらで火照る頬を押さえる。
「も、もう、なによいきなり！　ふたりして私をからかって」
「ハハハ、別にからかってなんかねーよなー？」
　あんたも乗れよ、と言わんばかりに託志が目配せをしてきた。
「え？　俺？」
　そうだよな、ここは乗っとかないとな。と、言うわけで、
「あと五年も待っとけるなら、喜んで、だな！　ワハハ！」
　と笑った。
「え、五年？」
「ワハハ！」
　もう笑って誤魔化すしかない護堂である。
「……そろそろお会計しないと」
　憂子が腰を上げる。
「あ、もう払ってあるぜ？」
　託志はさらりと言ってのける。
「え、今日は私が……」
「おいおい、流石に女性に奢らせるわけにはいかねぇよ」
「だって、」
「イイ恰好くらいさせてくれよ」
　護堂の分まで、というのはあれだったが実は未成年だというのだから仕方がない。
　子供にたかるわけにはいかない、のだ。
「気にすんなって、こう見えてもウチの店、結構儲かってるんだぜ？
　嘘だって思うんだったら、今度ウチの店に来たらいいさ。
　そうだ、来たらいいんだよ。鬱憤溜まってんならウチで叫べばいいしな。
　カラオケ、スッキリするぜ？」
　一気にまくし立てると、憂子は晴れ晴れと笑った。
「……これね、結婚のために貯めたお金だったの」
　丁寧に頭を下げる憂子。
「ありがとう、ございます」
　くすぐったくて、笑うしかなかった。
　