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ギリシャ、サントリーニ島の夕日
ぽからっ、ぽからっ。
ロバが連なり、階段状の坂道をゆっくりと歩いていく。
ねこぴょんから10年後。黒のリゾートドレスがよく似合う
青山 絢
と、淡いブルーのスカーフを真知子巻きにした
水谷 真優理
は、それぞれ小柄なロバの背に揺られながら、旧港から崖上の街を目指す。なんとこのロバ、タクシーだというのだから驚きだ。
ここはギリシャ、サントリーニ島。白壁の街並みと青い屋根、そして夕日が世界一美しいことで有名な三日月形の島である。その成り立ちは、紀元前17世紀にまで遡るそうだ。そのころ、このエーゲ海の火山島は大爆発を起こし、火口部分が吹き飛んでカルデラ――すなわち、三日月の内側の円にあたる断崖絶壁を形成したのである。人々は、その断崖絶壁に張りつくような、美しい白亜の街並みを創りだした。島を遠目から見ると、街は海沿いと崖上の二か所に分かれているように見える。ロバのタクシーは、海沿いのオールドポートから崖上の街フィラへの、昔ながらの交通手段なのであった。
絢はかすかに身体を傾けて、半歩後ろのロバに乗る真優理に話しかける。
「ねえ真優理さん。この島の街並み、見覚えない?」
「あるわ。星ヶ丘そっくり」
真優理は、寝子島は星ヶ丘の超高級ホテル「ステッラ・デッラ・コリーナ」のコンシェルジュだ。こうしてサントリーニ島に来てみると、星ヶ丘はこんな南欧の街並みを日本でも再現したくて創られた街なのだろうと思えてくる。
「けど、こっちのほうが断然、圧倒的」
星ヶ丘は途中からシーサイドタウンの都会的な街並みに変わってしまうけれど、サントリーニ島の白亜の世界は途切れることがない。ずっとその世界に浸らせてくれる。それから、素晴らしいエーゲ海。同じ海でも潮風の匂いが違う、と真優理は思った。
そんな真優理の姿を、絢は逃さず写真に収める。
「素敵よ、真優理さん」
「もう絢ちゃんたら! 私ばかり撮ってないで、自分も写りなさいよ」
「いいの。写真や映像のなかに収まるのは、仕事で十分やってるから」
絢は売れっ子女優の顔になって、嫣然と微笑む。
昔は高校に押しかけてまで絢の写真を撮りまくっていた真優理が、いまではすっかり被写体側だ。
絢の父は高名な写真家だった。絢もいい写真を撮る。血は争えない――そう思うこともあるけれど、真優理がそれを口にすることはなかった。絢の父親は、絢の母が亡くなった直後にアシスタントだった女性と再婚するような、女目線でろくでもない男だったから。
でも、おかげで絢は父の元を離れ、寝子島での高校生活を選択した。寝子島に暮らす従姉の自分を半分保護者代わりに頼ってくれた。それがいまでは恋人として、また、信頼できる家族として、ともに人生を歩む仲になったのだから、人生万事塞翁が馬と言わざるを得ない。
馬といえば、絢たちが乗っているロバのタクシーだが、タクシーなだけでも驚きなのになんと自動運転である。より正確に言うと、ロバ遣いのような人間が1頭ずつ引いて歩くわけではなく、ロバたちが自発的に列をなして、崖下から崖上へと歩いてゆくのだ。せっかちなロバもいれば、好奇心旺盛なロバもいたり、仲間にちょっかいをかけるロバもいる。絢が乗ったロバは途中で仲間と鼻をおっつけあって止まってしまった。
「うそー。でもこれもシャッターチャンス?」
鼻キスしあうロバたちの写真を撮っていたら、ロバが予期せず歩きだす。
「きゃっ」
ロバの背のうえでバランスを崩しかけた絢は、なんとかその首にしがみついた。
なんとも自由というか……いや、日本での暮らしがあまりに規則正しすぎて不自由なのか?
そんな気分になれるのも、旅の醍醐味だろう。
崖上の街フィラは、三日月型のサントリーニ島のお腹、つまり、内側の弧のちょうど真ん中あたりにある。見晴らしは最高で、カルデラ湾に浮かぶ活火山ネア・カメニ島の姿もよく見えた。
フィラの街は夏の観光シーズンとあって、世界中から集まった観光客で賑わっている。そのうえ、どこもかしこも写真映えする。
絢と真優理はまず、青いドームと三つの鐘が並ぶスリー・ベルズ・オブ・フィラ教会を訪ねた。
「わあ……! 青いドームと三つの鈴ごしに海と断崖絶壁を一望に見渡せるなんて!」
「絵葉書、絶対に買うわ!」
絢はきゃあきゃあ言いながら絵葉書さながらの風景をバックに真優理の写真を撮り。
それからお土産屋さんを冷やかしながらそぞろ歩き。
貝殻で作った工芸品や、帆船の模型など、可愛いものが満載でまた写真を撮り。
絶景を望むカフェに立ち寄ってまた写真を撮り――。
「絢ちゃん。ちょっと恥ずかしいし、やめてよ。私の写真はもういいでしょ?」
「やめないー。昔、私もこうされてたもん。真優理さん、学校行事のたびにきゃあきゃあ言いながらカメラ構えててさ。あのとき私、かなり恥ずかしかったんだから」
「ごめんってば。参ったわね、今になって意趣返しされるなんて……」
「ふふ。本当はね……今の瞬間を忘れたくないから」
覗いていたファインダーから視線をあげた絢の瞳は大真面目だった。
「私、有名になりすぎちゃったかな。真優理さんと二人で旅行に行くのもすっかり難しくなっちゃったし」
テレビドラマや映画への出演を重ねて、いまや絢は日本ではそれなりの認知度である。
二人の関係がバレたら、いくら同性愛への理解が進んだとはいえ、面倒ごとになるのは避けられない。
でもここでなら。
二人でカップルジュースを飲んだって、不自然じゃない。
絢はテーブルの上のトロピカルオレンジのジュースにストローを二本挿すと、真優理に一緒に飲もうと目くばせした。
「……スリル満点ね」
まるでキスでもするかのように、お互いにストローに口を近づける。近いところで視線がぶつかる。
日本からの観光客だっていないわけじゃない。どこかで誰かがパパラッチしてたら……なんて考えると、ドキドキ心臓が早鐘を打つ。
(それともこれは恋のドキドキかしら)
エーゲ海を臨みながら飲むジュースは、とてもフレッシュで、甘かった。
夕刻がやってきた。
有名なのはイオという街の夕焼けだが、このフィラからの眺めも悪くない、とホテルのコンシェルジュが言っていた――崖上のラグジュアリーなホテルだ。お値段もかなりだが今をときめく絢ならば支払えぬ金額ではない――ので、今日はこのフィラから、明日はイオからの眺めを楽しむつもりだ。
日が暮れてくる。
白亜の街が薄紫色に変わってくる。
海の際はローズピンク。空の上の方は淡いブルー。家々に灯りが灯りはじめ、断崖は昏く沈んでゆく。
ふたりは自然と手を繋ぎ、互いの肩を寄せ合っていた。
あまりに圧倒的なマジックアワー。
言葉も出ない。
あれだけ写真を撮りまくっていた絢だったが、いまはカメラを取り出す気にはならなかった。
――この光景は、心にとどめておくべきだわ。
いつまでも。いつまでも。
死がふたりを分かとうとも、この夕焼けのことは忘れぬだろうと、絢は思う。
ふたりは夕日がすっかり落ち切るまでその光景を眺めていた。
そうしてあたりがすっかり暗くなったころ、優しいキスを交わしたのだった。
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担当ゲームマスター
笈地 行
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
動物・自然
NPC交流
定員
10人
参加キャラクター数
9人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年07月20日
参加申し込みの期限
2026年07月27日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年07月27日 11時00分
参加キャラクター一覧
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