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あの人からの手紙
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「今日はチラシが多いわね。これはDM……。ん? この封筒は……まーちゃんだわ」
月のない夜。定時を超えた仕事を終え、橋1本先の病院から自宅に戻った
深倉 理紗子
は、郵便受けの中に、中学生時代からの親友・
深林 真瞭
の手紙を見つけた。とっさに消印を確認すると、1カ月ほど前に寝子島を離れた彼女は、今は京都にいるようだった。
「大阪のコンサートは無事終えたのね」
玄関ドアを開けてパンプスを脱ぎ、ワンルームの短い廊下を歩いて、部屋に向かう。ヴァイオリニストとして活躍する真瞭は、今は各地でコンサートの真っ最中。理紗子は内科医として働く寝子島総合病院と自宅を往復する毎日だ。
荷物を置いてから、理紗子はペーパーナイフで慎重に、封筒の封を切った。
中からほのかに、お香のような香りが漂う。香りつきの便箋かと思いきや、封筒の中には、花の形をした小さな紙が同封されていた。どうやらこれが、いい匂いのもとらしい。
「……癒される香りね」
ほっと息を吐きつつ、便箋を開く。中には美しく整った文字が並んでいた。
「そういえば、まーちゃん、字が綺麗だっけ」
手書きの手紙をもらったのは、どれくらいぶりだろう。理紗子は親友の文字を、愛おしく眺めた。理紗子自身、文章を書く機会は多い。だがそれはカルテの記入、つまりはパソコン入力がほとんどだった。
寝子島から京都へとひとっとびに連れていってくれそうな香りに包まれ、手紙を読み進める。
「ふふ、お昼に食べたお蕎麦が美味しかったって書いてあるわ。コンサートホールの近くのお蕎麦屋さん……奥様が昔舞妓さんをしてたって……。えっ、舞妓さんの衣装が似あいそうって言われたの? まーちゃんは凛とした美人だから、たしかに似合いそうね」
多忙な音楽家のほのぼのとした日常に、理紗子はくすくすと笑った。
でも「りさちんも似合いそう」と書かれているのには「そうかしら?」と首を傾げてしまう。
『ぜったい似合うって! なんなら一緒に、舞妓体験してみない?』
真瞭ならそんなことを言いそうだ。とはいえ、今理紗子の脳裏によみがえっているのは、学生時代の真瞭である。
「あの頃は毎日、こんな他愛もない話をしてたんだっけ……」
今、互いの夢を叶え活躍していることは、素晴らしいと思う。だが多忙な――多忙すぎる日々の中で、あの毎日の友情を、懐かしい日々を愛おしく感じるのも事実だ。
「わたしもまーちゃんに返事を書こう。たしかどこかにレターセットがあったはず……」
理紗子は真瞭の手紙を置いて、レターセットを探し始めた。
見つけたものは、白一色のシンプルなもので、少々味気ない気はする。が、買いに行く時間はないから、これでよしということにしよう。
「何を書こうかしら。まーちゃんは舞妓姿が似合いそうってことと……病院の売店で買った、寝子島限定の猫の形をしたおだんごが美味しかったことにしようかしら」
最初は迷いながらペンを走らせていたが、そのうちに、書きたいことがどんどん湧いてきた。
最終的に、便箋5枚が文字でいっぱい。真瞭がくれた手紙と同じ長さだ。最後に真瞭が暮らす星ヶ丘のマンションの住所を書いて、理紗子はペンを置いた。あとはこれを、明日の通勤前にポストに入れればいい。
窓のそばに寄り、カーテンを開ける。
いつのまに雲が去ったのか、空には月が輝いていた。
※
「やっと家に着いた……あっ、りさちんから手紙来てる!」
夕刻のオレンジ色の日差しの中。寝子島、星ヶ丘のマンションに着いてすぐ。
郵便受けに溜まっていたチラシとDMの中に、真っ白な封筒を見つけて、真瞭は破顔した。
京都から送った手紙に書いたことは、なんてことはない日常の出来事。しかもきっかけは『なんとなく』だった。
(あの手紙に、ちゃんと手紙で返事をくれるなんて。やっぱりりさちんはりさちんだわ)
綺麗な文字で書かれた宛名に、真面目で優しい親友を想う。
真瞭は部屋に入り荷物を置くと、すぐに白い封筒を開封した。
きっちり揃えて折られた便箋の枚数に驚きつつ、理紗子に手紙を書こうと思った日のことを思い出す。
ソリストとして各地で行っているコンサートは、幸いどこもチケットは完売していた。お客様の反応も上々で、SNSで嬉しい感想を見ることもある。
でも実際は、コンサートホールの使用料その他経費を差し引くと、手元に残る金額はわずかだ。多忙すぎる日々に疲れた夜は、これならいっそ交響楽団で、第一ヴァイオリン兼コンサートマスターをしていたときのほうがよかったかも……なんて思うことも、あったりなかったり。
(でもしっかりとやっておかなきゃ、次の仕事に繋げないし)
リハーサルに入る前。真瞭は少しだけ肩を落として、ホール近くの蕎麦屋に入った。
あまり食欲がないから、さらっとお蕎麦でも。ただそれだけだったのだが、食べたお蕎麦の美味しかったこと! しかも店主の奥さんが明るい人で、話すうちに、理紗子のことを思い出した。
それで、奥さんが会話のついでに教えてくれた、文香を買ったのだ。寝子島で忙しくしているだろう理紗子にも、癒されてほしいと思って。
「りさちん、今日のお昼は何食べたかな……」
その日の夜。
真瞭は文章をしたためながら、遠くにいる親友を思い浮かべた。医者の不養生をするタイプではないし、きっと元気にしているだろうとは思う。それでも、毎日お弁当や学食を一緒に食べて、たっぷりおしゃべりしていた学生時代が懐かしかった。
「お互い夢を叶えたし、りさちんとは今も仲いいし、あの頃に戻りたいとは思わないけど……」
書き上げた手紙は、翌日、ホテル近くのポストに投函した。京都の後は名古屋に向かう予定で、真瞭が寝子島に戻るのはまだ先になる。返事があってもなくても、戻ったら連絡しよう。そう思った。
「寝子島限定の猫のお団子? ぜったいかわいいわね。まだ売ってるかしら?」
理紗子の手紙を読みながら、真瞭はさっそくスマホで、お団子を検索した。
「あっ、まだ売ってそう! 三毛猫とチャトラ猫と白猫が、3つくっついた蜜団子だって! 美味しそう~。それにしても、りさちん、めっちゃ字がキレイ。見ていて癒しになるなー。手紙ありがとうって書いてくれてあるのも嬉しい~」
この喜びを伝えたいけれど、それには手紙は遅すぎる。
真瞭は、お団子を検索したスマホの画面を閉じると、アプリを起動し、理紗子にメッセージを打ち始めた。
『りさちん、ただいま。寝子島に帰ってきたよ。コンサートは問題なく無事終了。明日は久々の休みなの。手紙の返事ありがとう。お団子すごく美味しそうだったから、明日探してみるね』
理紗子から『わたしも明日休みなの。よかったら会わない?』と返事が来たのは、満月が空に輝き始めて、しばらくたった頃だった。
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担当ゲームマスター
瀬田一稀
シナリオタイプ(らっポ)
ブロンズシナリオ(100)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
恋愛
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月03日
参加申し込みの期限
2026年06月10日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月10日 11時00分
参加キャラクター一覧
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