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雨の日に観覧車
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幻燈の姫
コスパだとかタイパだとか誰も彼もが行き急いでいて世知辛い昨今ではあるが、
桜井 ラッセル
はふらりと気ままにあてもなく、気が引かれる道を散策するのが好きだった。思えばそれは昔から――寝子島に来る前、本土にいたころからそうだった気がする。
雨の日に観覧車に乗ったのもそんな『ふらり』の延長で、目的や意味があったわけではなかった。
「人によっちゃ、雨の日にひとりで観覧車に乗るなんて無駄極まりない、って思うんだろうな。一周する間、することもないし、映えもないし……」
だけど、とラッセルはそっとゴンドラの窓ガラスに額を当てる。
「上がっていく感覚いいんだよな。まー鳥の翼にゃかなわねーが……高いとこやっぱ好きだなぁ」
鳥になれていたころの感覚は、まだ身体に残っている。
翼を広げて空を仰ぎ、風に乗って滑空する幸福感。
観覧車とは別物だけれど、あの感覚に、少しだけなれる。
ラッセルは知らずまぶたを閉じ、心地よく鳥になる夢を見た。
それはきっとほんの一瞬のことだったのだろう。
かくっと舟を漕いだ自分に驚いて、ラッセルは慌てて目をこする。
「っ……俺、今、寝ちまったか? 青空もいいけど雨の日も情緒があってこういうのも好きなのに、寝ちまったら観覧車代がもったいねー」
「まったくじゃな」
独り言のつもりで口にした言葉に思いがけず返事があった。
「え……」
ラッセルは一度、それからもう一度、瞬きする。
金魚みたいに幾度か口をぱくぱくさせて、ようやく、その人の名が飛びだしてきた。
「――九鬼姫さん!?」
九鬼姫、と呼ばれた黒髪の彼女は、まるで幻灯機で空中に映した影絵のようにあまりにも儚くそこにいた。彼女は……もう亡くなっているのだ。それだけではない。風の精である晴月に『
八幡 かなえ
』としての名を、存在を、譲り渡して――
「
あの時消えたんじゃ
……!?」
「そうやもしれぬ、そうでないやもしれぬ」
「もう二度と会えないだろうと思ってた……」
「わらわがわらわかどうかは、わらわにもわからぬ。夢幻かもしれぬ、ラッセルの記憶の投影かもしれぬ」
「それでもっ!」
それでもいい、とラッセルは思った。
「それでも……九鬼姫さん、あんたにまた会いたかった。
晴月
に道をくれて代わりに消えてしまって俺、……すっげー感謝したけど、うれしい反面、九鬼姫さんに申し訳ない気持ちもあったんだ」
「ふふ、ラッセルは善人じゃな。あのときのことは、わらわがしたくてやったこと。申し訳なく思う必要はないが」
生前から、戦国時代の姫のように話す、その口調は健在だった。その口ぶりが死してなお……このように幻燈のように儚くなってなお変わらぬから、ラッセルはいま目の前にいる九鬼姫という存在を信じた。
「そうだよな。すみません、っていうのは違う。だから、ありがとうございました……!」
深々と頭を下げたラッセルに、九鬼姫は目を丸くして、それから高らかに笑ってみせた。
「ふふ……はははは……うむ。苦しゅうない。面をあげよ」
「九鬼姫さん……言葉を重ねるのは野暮かもしれない、けどエゴでも俺が見せた願望でも一言お礼を」
「よいよい。謝辞は充分じゃ。それよりその後、晴月とはどうしておるのじゃ。話して聞かせい」
「えっ? ……ええと、晴月は最近ちょっと浮かない顔してて……あ、そうだ、九鬼姫さん。晴月の心を埋めるものの見当ってつかねーかな。俺、どうしていいか」
「恋愛相談か。大好物じゃぞ」
触れられもせぬ九鬼姫と、ゴンドラに乗っているあいだじゅう恋バナをする。
「生きているのだから、悩むひまがあるなら会って話せばよいではないか」
「そうだけど、それができねーから悩むっつーか……」
「しゃんとせい、しゃんと!」
もしかしたら今度こそ本当に、二度と会えないのかもしれないけれど……いっときだけでも九鬼姫と、フツウの友人のように話すことができて嬉しかった。
(たとえ願望でも幻でもかまわない。お礼を言いたかったんだ。……言えてよかったよ、九鬼姫さん)
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
笈地 行
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
SF・ファンタジー
定員
5人
参加キャラクター数
4人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年05月24日
参加申し込みの期限
2026年05月31日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年05月31日 11時00分
参加キャラクター一覧
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