【星幽塔】グリフィンレイク王国物語～かわいいって言ったら負け｜リアクション

【星幽塔】グリフィンレイク王国物語～かわいいって言ったら負け

（グリフィンの赤ん坊の子守？　これはいいや）

　月原想花はBarアストラルで見つけた仕事に早速応募することにした。何せ、こんなファンタジーなアルバイトは寝子島にいる時はまず出来ない。
　グリフィンレイク王国に到着すると、さっそくメイドに応接間に通された。

「月原さま、本日はグリフィンの子守の仕事にご応募ありがとうございます。こちらは赤ん坊の嘴と爪からあなたをお守りするエプロンでございます」
　お茶を出し、分厚いエプロンを手渡したメイドが下がると同時に、エルディン王子がやってきて、丁寧に業務の流れを説明してくれた。
「えーと、朝の食事の後は、庭で日光浴なんだけど、出入りの際は小屋の鍵を閉め忘れないように注意して下さい。脱走する子がいるので、必ず二人以上でチェックして……」
　そこまで言ったところで、ドアがノックされた。

「何だよ、今来客中だぞ」
　王子は入ってきた使用人に眉をひそめたが、報告を聞いて顔色を変えた。
「何があったんですか？」
　想花の問いに、王子は栗色の髪を掻きながら言う。
「赤ちゃんが一頭、脱走しました。ロイという子で……脱走常習犯なんです」

◆

「……眠い」
「……昨日、夜鳴きひどかったものね」

　朝、ティオレと桜はそろって大欠伸である。
　二人は同じ使用人部屋で寝起きしていたが、飼育小屋を脱走してそこまでついてくる赤ちゃんがいたのである。
　親と死別したその赤ちゃん――スージーは、ぴーぴーと夜鳴きをして、二人の安眠を妨げた。
　今は朝の食事と体重測定も終わり、そろそろ日光浴の時間だ。先ほどラッセルと晴月が数頭を連れて外に出て行ったばかり。

「はいはい、遊びたいのね」
　桜は太い紐のおもちゃを持って、ゆらゆらと揺らせば、スージーは大喜びだ。
　他の赤ちゃんは互いにじゃれあったり、毛繕いに忙しいが、スージーは特に人間と遊ぶのが大好きな子だ、と桜は思っていた。
「うんうん、可愛いねー」
　爪と嘴はしっかり鋭いのだが、体毛はふわふわだし、後足の肉球は柔らかく、天空の捕食者たる威容を備えるにはまだ時間がかかりそうだ。

「じっとしてるんだよ、次の日光浴はあんた達の番なんだから」
　ティオレの方はというと、走り回る赤ちゃんを追いかけて捕まえようと頑張っている。まだ飛べないとはいえ、すばしっこい彼らを捕らえるのは至難の技だ。

（それに、ピアスをおもちゃにされたら大変だものね……）

　少し同情し、お腹を見せて寝転がるスージーを撫でる。
　小屋の片隅では、美野梨がグリフィン達の爪と嘴に注意しながら巧みに彼らを誘導し、すばやく寝床の掃除を済ませている。
　そこへ、慌ただしいノックの後扉が開き、王子が顔を出してこう言った。

「あっ、皆さん！　ちょっと今ロイが脱走しちゃって、保護しに行ってきます！　他の子は誰も外に出さないよう気をつけて下さい！」
　慌てて走って行く王子を見送りながら、美野梨が困った顔で呟いた。
「日光浴に三頭外に出ちゃってます、って報告した方がいいかしら」

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