【星幽塔】グリフィンレイク王国物語～かわいいって言ったら負け｜リアクション

【星幽塔】グリフィンレイク王国物語～かわいいって言ったら負け

「あー、いいな～。かわいいな～」
　桜井ラッセルが自身の三つ編みを揺らすと、小さな鷲の足が二つじゃれついてくる。
「ふっふっふ……俺の遊びはそんなに甘くないぜ！」
　ラッセルの前にいるグリフィンの赤ちゃんは、ピーピーと鳴きながらも目つきは鋭い。
「捕まえられるかな？」
　床に伏せた赤ちゃんの前で、ゆらゆらと三つ編みを動かしては、さっと引っ込める。
「残念でしたー！」
　捕まえ損ねた赤ちゃんは、まだ諦めていないらしく、金色の目をキラキラ輝かせている。
　ふわふわクリームパンのような足でラッセルの体をよじ登ろうとするのだが、爪はしっかり鋭い。
「ちょっ、ダメ！　顔は痛いー！」

　赤ちゃんを引きはがした所で、風の精晴月の声が聞こえた。
「ラッセル、そろそろ皆のご飯の時間だよ」
「おう」
　顔を上げれば、晴月は二頭の赤ちゃんの首根っこを掴んで立ち、その隣に餌皿を乗せたお盆を持ったエルディン王子が立っていた。
「殿下、お疲れ様です！」
「桜井さんも、お疲れ様～」
　王子は三頭の赤ちゃんたちを、飼育小屋の床に座らせ、ひき肉の入った皿を並べて、『待て』をさせる。
『よし！』の後、一斉に食べるのを見届けて記録をつけてから、王子は別の赤ちゃんのところへと向かった。

「王子、『待て』を覚えさせるの大変だって言ってたなー。可愛いけどみんな気まぐれだし」
「そうだねぇ」
　晴月に話しかけると、心ここにあらずという風だ。
「ラッセルはどうして子守のお仕事を引き受けようと思ったの？」
「え？　そりゃあ、同じ鳥（に変身する）の先輩として参加しねー選択肢はねーと思ってさ」
「ふぅん」
「それにさ、ライオンと鳥のいいとこ取りでかわいさも別次元ってのがもう、たまんねぇし！」
　お腹いっぱいになって眠そうな赤ちゃんたちを寝床に移動しながら言うと、晴月の頬がぷーっと膨らんだ。

（……これ、もしかして、やきもちってやつ？）

　ラッセルは気づいた。今日、赤ちゃんにばかり『かわいい』と言って、隣にいる大切な人には言っていなかったことを。
「は、晴月も可愛いぞ」
「え？　あ、ありがと……」

　あまりに恥ずかしくて、とても晴月の方を見れたものではなかったけれど。

◆

　ラッセルが真っ赤な顔でそっぽを向いていた頃、神野美野梨はというと、エルディン王子を質問攻めにしていた。

「殿下、赤ちゃん達の主食って、最初から肉なんですか？」

　足下では、赤ちゃんたちが一心不乱に皿の挽肉を食べている。

「そうだよ。まだ歩けない頃は、親が吐き戻した半消化の肉から始まって、だんだん固形物になっていくんだけど。飼育下ではスープで溶かした挽肉で代用しているんだ」
「大体何ヶ月くらいで飛び始めるんですか？」
「んー、個体差はあるけど五ヶ月くらいからかな。まぁ、人を乗せる訓練をして、安全に飛べるようになるまでは……なんだかんだ言って一年くらいかかっちゃうんだけど」

　王子は、美野梨の質問に対して成長記録を参照しながらていねいに答えてくれる。

「脱走癖があるのはどの子ですか？　扉を自分で開けられるの？　窓からですか？」
「あぁ、そこの……青い首輪のロイだよ。扉を開けたり、隙間から体をねじ込んだり、飛べないのに苦労してよじ登ったり……やりたい放題なんだ」
「なるほど、だから扉には試行錯誤の跡があるんですね」
「そうなんだよ～。最近は大きくなってきたし、もうできないだろうと思っても、まさかそこから！　って感じで……」

　王子が愚痴を話そうとしたその時。
　美野梨には、彼の背後から眼鏡をかけた文官が忍び寄るのが分かった。

「脱走癖はあなたもでしょう、で・ん・か！」
「ヒィ！」
「３０分の約束だったのに、もう一時間経っております！　事務仕事に戻りましょうね」
「あ、神野さん、皆が食べ終わったらお皿を洗って、小屋の掃除を頼みます」
「かしこまりました」

　がしっと肩を掴まれ、文官に連れ戻される王子の顔はまるで、いたずらをして飼い主に叱られる子犬のようだ……と思いながら、美野梨は作業に取りかかった。

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