ジ・オータム・ボディタッチ日和｜リアクション

ジ・オータム・ボディタッチ日和

「……はれ？」
　記憶は忘却の彼方。何やら熱に浮かされていたような気がする。朝永真深が身を起こすとするり衣擦れの音。はてなぜにこんなにも自分は着衣を着崩しているのか。カボチャの魔女、だろうかこの扮装は。そういえばハロウィンが近いからと親友の手島ゆかりとコスチューム選びに興じていたのだった。魔女はどうだ、吸血鬼もいいんじゃない、ゾンビやキョンシーってのもアリ？　それとも流行りのアニメキャラでいく？　なんてやりとりも加速して大いに盛り上がったものだ。
「ううん……」
「カーリー？　あたしたち、寝ちゃってたみたい……で、えっ」
　傍らには同じく寝乱れた格好のカーリーことゆかりが静かな寝息を立てている。立てているがそれはいい、自分もこのままもう一度寝入ってしまいそうなくらいに何故だか疲労を感じる。それはいいがゆかりの露出した胸元やら肩口やらにぽつりぽつりと残る赤みを帯びた痕跡を目にするに、真深の頭はぐるぐると巡り揺らめいた。もしかしてだがこれはもしかしていわゆる一つの、キスマークというやつではなかろうか。
「やっ……ちゃった？　あたしたち？」
「んも～、真深ぃ……はげしすぎるよぅ……」
　裏付けのようなどこか幸せそうなゆかりの寝言に、真深は呆として目を瞬いた。

　果たして本当にやっちまったのかどうなのか、少し記憶と時を遡り確かめることとする。
　真深の住む伽藍とした豪邸にゆかりの開けっ広げで無邪気な笑い声が響いた。両親は今日も多忙につき帰宅しないらしい。いささか空虚で冷たくも思える我が家にあって、親友の飾らない明るさや少しばかり強引なまでの行動力は真深にとって救いでもあった。彼女は胸にぽっかりと開いた穴を隙間なく埋めてくれるような存在だ。
「それでさ～、中間テストの数学のあの問題！　私ゼッタイ間違えてるよ～！　ああーミスったなぁ」
「桐島先生の引っ掛けだよねあれは。あたしもあそこはやられたなぁ」
「ね～、ヤバイよねあれ！」
　親友同士の気の置けない会話には話題など問わない、例えそれが心乗らずできればずっと忘れておきたいテストのやらかしであったとしても、女子高生とはとかく話のタネに事欠かないものである。この日も他愛もない雑談が止め処なく巡り続け、真深は自宅に自分と使用人の数名のみという虚ろを味わわずに済んだ。
「あ、そうそう。もうすぐハロウィンじゃん？　コスプレしようよコスプレ！」
「好きだよねカーリー、そういうの」
「真深はやりたくない？」
「ううん、別にいいよ。一人だったら考えちゃうけど、カーリーと一緒ならいいかな」
「やったね、ありがと真深ー愛してる！」
「はいはい。で、何のコスプレするの？」
「それよそれ。じゃじゃーん！」
「って、衣装持ってきたの？　ノリノリじゃない」
「へっへっへ～。実際に着てみて決めようよ！　ほらこの魔女ルックなんて真深に似合いそう、ちょ～オススメ！」
　コスプレ衣装をとっかえひっかえ、これが似合うだの似合わないだの、これは露出が激しすぎてエッチだからダメとか、これはディテールの作り込みがちょっと甘くてチープだからイマイチだねなどと吟味した。ハロウィンを前に、当日の盛り上がりもかくやと楽しむ。二人でそうして過ごす時間こそがもはやイベントごとであり、掛け替えの無い時間なのだった。
　桃色の風が窓の隙間から入り込みカーテンを揺らし、部屋の中へ刹那に渦を巻いたのはそんな時だった。
「……どう、したの？　真深……」
「えっ、何でもない……けど？　カーリーは？　何か、顔が赤いよ？」
「真深だって……」
　この瞬間、異様なまでに人恋しい。くっつきたい。誰かにすりすりして、誰かの肌にむちゅっとしたりされたりして……誰か？　言わずもがなだ。真深の瞳にはもはやゆかりしか映らなかった。彼女もまたそうであっただろうか、二人は見つめ合ったまま互いに視線を引き剥がせず、微動だにできない。
「……嘘。何でもなくない」
「うん。私も……」
　触れる。触れ合う。見つめ合い指を繋ぎ、自然な流れとばかりあむっとした。れろっとしてむちゅっするとぴくりゆかりの肩が跳ねる。
「カーリー。あたし……あたし」
「真深……！」
　ゆかりの繊細な指をくわえて思う存分にちゅぱった。

　つまりそういうことである。思い出すと真深の頬は真紅に染まった。
「ふわぁ……おはよ～、真深。いやぁうっかり、寝ちゃったよ。あれ、どうしたの真深？　顔が真っ赤だけ、ど……」
　目が合うとあちらもまた最中の記憶が蘇ったのだろう、それはもうまざまざと。
　茹蛸のように頬を朱に染め少女二人、ぴくりとも身動き取れず曖昧な笑みを浮かべた。

このページにイラストを設定する

ジ・オータム・ボディタッチ日和

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧