ONE DAY クルーズ｜リアクション

ONE DAY クルーズ

◆写真撮影

　八神修は七夜あおいと寝子島のマンションで過ごしていた。
　週末に泊まるために使っているところで、あおいが連泊バカンス中だ。そして今回はクルーズ船『ニャンタマリア号』で過ごすランチクルーズに２人で向かう。イソラ・ガレッジャンテに赴くとすでに船が停泊していた。　

「大きい船だね」

　あおいが無邪気に言うのを修は微笑ましく見守る。乗船してビュッフェ会場へ向かうとフランス料理、イタリア料理、和食に中華とまさに多様なラインナップ。修は野菜を中心に各国の料理を揃えつつ、量は少なめ。肉もちゃんと取っているものの、野菜の割合が高い。一方あおいは栄養を考えつつも好きなものを選んでいる。

「なんだか野菜が多いね」
「実は俺、ウサギの国から来たんだよね」

　そんな会話を挟みながら料理を選び終えてテーブルへ戻る。食べてみるとどれも上品な美味しさで一口ごとに幸せな味が広がる。

「この料理、どれもおいしいよ修くん」
「だな。きっとすごい料理人が揃ってるよ」

　一皿目のビュッフェを食べ終えた後、先ほど食べなかった料理で二皿目を彩る。それも十分に堪能した２人はビュッフェ会場を後にしてデッキに向かう。海の上で感じる風が心地いい。船はだいぶ進んでいて、寝子島が遠くに見える。空に視線を移すと、カモメの姿が見えた。

「修くん、カモメがいるよ」
「思わぬ邂逅だね」

　するとカモメが空からゆったりとした軌道を描きながら降りてきた。そっと手すりに足を下ろすと、乗客のほうを見ている。もしかしたら他の船でもよく羽を休めているのかもしれない。
　２人はカモメを脅かさないように気を付けながらカメラを向ける。機会を伺ってあおいとカモメの２ショットも収めた。しばらくすると、カモメたちは再び空へ舞い戻る。出会いに感謝して、手を振りながら見送った。その後もデッキから見える景色を眺めながら２人で語らう。

「もしよければ撮影しましょうか？」

　ふと船員が声を掛けてくれた。修のカメラに気づいたのだろう。折角の厚意を受け取ることにした。遠くに見える寝子島を背景に、修とあおいの２ショットを撮ってもらう。

「デートですか？」
「ええ、そうなんです」

　船員は修の返答に嬉しそうに微笑んだ。良い船旅を、と言い残して船員は去っていった。修はあおいの顔を見る。

「デートに見えるってさ」

　あおいは照れくさそうに、それでも嬉しそうに笑った。その表情を見ると修も嬉しさがこみあげてくる。少しくすぐったさを感じるこの時間が、本当に幸せだった。
　寝子島に戻ると、先ほど撮った写真のことを話しながらマンションに帰った。

このページにイラストを設定する