ONE DAY クルーズ｜リアクション

ONE DAY クルーズ

◆クルーズデート

　羽生碧南が片想いだった鷹取洋二と両想いになったのは去年の暮れのこと。それは大変喜ばしいことだったが、マタ大にバスケの特待生として入ったため、練習に授業に大忙しでデートする暇がない。それでも折を見てはデートを重ねていた。洋二も彼女の事情を汲んで、できるだけ時間を作った。
　そんななか、彼が見つけてきたのが豪華客船『ニャンタマリア号』で行く、数時間程度のプチクルーズだった。クルーズの話を聞いたとき、碧南は驚きと感謝の気持ちを彼に伝えた。当日、精一杯おめかしをして、星ヶ丘駅前で待ち合わせ。

「洋二さんはまだかな」

　少し経って、洋二も姿を見せる。彼も普段より少しかしこまった服を着ていた。

「待たせてしまったね」
「いえ全然！」
「その服、似合ってるよ」
「ありがとうございます！」

　会話もそこそこに２人でイソラ・ガレッジャンテへ向かう。そこには既にニャンタマリア号が停泊していた。その船体を見るなり、みるからに上流階級感を漂わせる優雅なフォルムに少し気後れする。
　だが同時に、彼女の脳内では乙女ゲーの数々のシチュが再生され始める。

（……って今日は洋二さんとのデートなんだってば！）

　思わず脳内でツッコミを入れると再生された映像が止まった。いざ乗船してみると優雅で落ち着いた雰囲気に最初はちょっと戸惑うけれど、慣れてきたら今度は居心地の良さを感じてしまうから不思議だ。

「行こうか」

　洋二が差し出した手を握ると、２人でアフタヌーンティーの会場へ向かう。予約席には３段のティースタンドが置かれ、ケーキやマカロンなどが丁寧に並べられている。格式を思わせつつ、手に取りやすい構成を意識したラインナップだ。

「碧南さんはこういった場に参加したことはあるかい？」
「寝子高時代に星ヶ丘寮で何度か体験しました。洋二さんは？」
「僕もそんなところだねえ。あまり気張らずに楽しもうじゃないか」

　彼の言葉で肩の力が抜けた気がした。
　碧南はノンシュガーのストレートティー、洋二はコーヒーで船上のアフタヌーンティーを楽しむ。楽しい時間はあっという間で、気づけば船は寝子島へ戻ってきていた。

（たった１時間だけど、素敵な時間を過ごせて幸せ）

　そんな気持ちを抱えて碧南は彼とともに船を降りた。

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