ONE DAY クルーズ｜リアクション

ONE DAY クルーズ

◆ディナークルーズ

　週末のある夜。
　水槻清恋はイブニングドレスに身を包んで星ヶ丘へ向かっていた。

（なんとなく落ち着かない）

　彼女があまり着なれない服をまとっているのはディナークルーズに招待されたから。招待主は森谷錠。セフレというかセフレ以上というか、そんな関係。いまは月に二度ほどの頻度で逢瀬を繰り返している。

（互いに多忙だしね）

　今回のクルージングは豪華客船『ニャンタマリア号』で行われる。乗船料金がお手頃で誰でも参加しやすい構成だが、やはり相応の格好は必要だろう。そう考えた清恋だったが生憎そんなものを持ち合わせていない。結局レンタルして、今袖を通している。正直なところ、似合っているのかどうか全く自信がない。

（レンタル元のスタッフは褒めてくれたけど……）

　そうこうするうちに錠と合流を果たし、ニャンタマリア号に乗り込んだ。ふと彼のほうを見ると、堅くなりすぎない程度にフォーマルな格好をしていた。錠は清恋と同い年で収入が億越えの会社役員。一方、彼女はしがない警察官。そんな２人がこうして過ごしているのは不思議なものだと思う。彼が清恋のドレスを見て口を開く。

「ドレス、似合ってるよ」
「ありがとう」

　普段逢うときはどちらかというとカジュアル寄りの服装なので、こういうフォーマルな姿に感動しているようだ。清恋からすると単純に思えるが、好ましくもあった。

「錠も似合ってるわよ」
「ありがとう」

　錠はどこか言われ慣れている雰囲気があった。立場上、今以上に礼儀が必要とされる場面も経験済みだろう。でも彼女の言葉は素直に受け止めたようだ。２人でディナー会場へ向かい、席に腰を落ち着ける。窓の外に目をやると、寝子島からだいぶ離れていた。

（着任して１年。小さな島っていうけれど、船から見る寝子島って大きいのね）

　その景色を眺めながら料理を待つ。フレンチのフルコースらしいので、雑談の流れで錠から食事の作法も聞いた。厳密に守る必要は無いが、心構えのようなものだ。
　スタッフが前菜から運んできて簡単な説明を添える。季節の食材を使ったフレンチで、寝子島で採れたものもふだんに使っているらしい。見た目が華やかで味も上品だった。食事をしながらお互いの近況を交わす。そして最後のデザートまで美味しくいただいた。

「とてもおいしかったわね」
「ああ」

　食事のあとは甲板にでて少し夜風を浴びる。心地よい、ぜいたくな時間の使い方だと感じた。島に着くと２人で星ヶ丘のステッラ・デッラ・コリーナに２人で向かう。そして約１か月ぶりに愛し合った。

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