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九夜へ挑む
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九夜はいつでもそこにあった。朝に目覚めて窓を開き、空気を入れ替えると同時目に入る。寝子電に揺られながらふと見れば山は穏やかに我らが心を見守っている。旅立ちの日に振り返ればどっしりとそこへ佇み、物言わぬまま背を押して送り出してくれた。山はいつだって我らと共に在り、寄り添い慈しむ大母のような存在であったのだ。
「準備はいい? ヒュー」
「うん。いつでもいけるよ」
城山 水樹
は幼い頃からそんな九夜山を見上げてきた。男の子たちに混じって夕暮れの路地を駆けた日々。悩みに暮れた多感な学生時代にも。仕事に就き期待と不安の狭間に揺れていたあの頃も。九夜はいつでもそこにあった。見守ってくれていた。
「大丈夫かい?」
武者震いと自身は思いながらも、
ヒュー・ヒューバート
は水樹の肩をそっと抱いた。怯えているわけではないが彼の好意は温かく胸に染みる。しばしその温もりに身を預け、やがて彼を見上げてほのかに色めく頬へ唇を寄せた。水樹なりの区切りや決意の発露であった。
「……うん。行きましょう!」
ウェアを着込み、バックパックにはロープ。ハーネス。カラビナ。グローブにチョークバッグ。必要なものを詰めこんだ。全てはあの断崖を踏破せんがため。
九夜へ挑む。偉大なる背を乗り越え今、大恩に報いる時。麓に立った二人は天を見上げその果てなき頂を一心に見つめる。そして一歩を踏み出した。
あえて難関となる北側ルートを選択したのに大きな理由は無かった。自分ならばできる、やれる、そう思ったからだ。
岩肌に飛び出した突起を目がけ腕を伸ばす。指の力のみで掴まるとテンションをかけ、振り子のように身体を振り片方の腕を突き上げる。岩の亀裂へ指を差しこみ固定し、足をかける場所を探す。上手く爪先を乗せると体幹を安定させたところでチョークバッグへ手を伸ばしつつ次のポイントを目で探す。
「よしっ……」
絶壁を水樹は己の肉体とギアのみを頼りに登る。眼下にはロープで繋がれたヒューの姿もあり、目が合うと彼は親指を立てて寄越した。彼と繋がれているというだけでも安堵が満ち、そして緊張感を切ることの危険を思い出しては気を取り直し再び頂点を目指す。
やれる。登り切れる。そう思った。実際にこうして岩肌を登り始めてからもその感覚は揺るぎなく水樹の内にしっかと根差した。九夜山は雄大にして壮大、今日は一際に苛烈で無情ではあるが無慈悲なわけでもない。岩肌にはアクセスできるポイントがいくつもあり支点さえ見つければ身体を押し上げてゆくことはできた。
「!」
高所には強い風が吹く。身体をあおられ揺らぎ、慌てて支点にかけたロープを掴んだ。
「大丈夫かい、水樹!」
「ええ、何とか……! そっちはどう?」
「問題ないよ!」
数度吹き荒んだ風をやり過ごし再び登攀を再開する。登り切れる。見上げた水樹の瞳は一点を結び迷うことは無かった。
それに爽快でもある。生き馬の目を抜くような忙しなく慌ただしい業界でモデルとして活動していると心が疲弊するのは常だ。楽しんで仕事をしているがそれのみで済まない局面にも度々遭遇する。人生とはそういうものであろうと達観した思いを抱きながら身体に蓄積する倦怠がそれを許さぬこともある。そうした地上のわだかまりを置き去りにしてただひたすら、上へ上へ。すし詰め状態のスケジュールも、予期せず了承もなく押し込まれた気の乗らぬ仕事も、モデル同士の衝突やら軋轢やらも全て、遥か遠き地上の出来事だ。ここにはただ澄んだ空気と乗り越えるべき壁、互いに絆で結ばれた婚約者の目線だけがある。
ちょっとした岩棚を見つけて腰をかけた。二人掛けベンチ程度のスペースだが休息を取るには足りる。後からやってきたヒューの身体を引っ張り上げると缶コーヒーを開け、口をつけた。褐色の幸福はまだ熱く臓腑へ染み込み、眺めた海の青さとの対比に二人は押し黙りしばし物言わぬまま水平線を見つめた。
知識など無かったはずだ。九夜登山を成し遂げるような体力も技術も。それでもヒューの手は自然とクラックへカムを仕込み、巧みなロープワークで手繰り寄せ、難所にも臆することなく果敢なアタックを敢行した。昨日までのヒューに成し得ただろうか。いや、これも九夜の加護とでも言うべきものか。黙して語らぬもその抱擁は矮小なる我ら全てを抱き止め受け入れて、あまつさえ導いてもくれる。何たる寛容だろう。
しかしながら甘やかなばかりではなかった。山頂まで残すところ百メートルといったところだろうか、九夜は唐突に二人を突き放した。
「!! 水樹っ」
「あ……」
これまでにない強烈な風だった。スローモーションめいて落下してゆく水樹を、届かぬ手を伸ばし見送った。やがてロープを伝い衝撃がヒューの全身を駆け抜け、水樹の全てが彼の腕へとのしかかった。
「ヒュー!! は、離して! 外して! あなたまで一緒に……」
「黙って!! 動くんじゃない。静かに……!!」
崖の僅かな亀裂に手を差し込み突っ張りながらに、ロープを引く。自分のどこにこれ程までの膂力が隠れていたというのだろう。片腕でロープをたぐり寄せ宙づりとなった水樹を引き上げてゆく。彼女の顔は蒼白にして四肢は弛緩している。どこか怪我でも無いだろうか。死の危険に絶望し穴の開いた胸で待っているのではないか。今すぐに抱きしめてやりたいが焦燥に気を取られればたちどころに二人分の体重が遥か眼下の地へと向かって投げ出されるだろう。
「う。う……うう」
「もう少し。後少しだ、水樹。頑張って……掴まえた!」
ヒューの胸の中へ飛び込むなり、水樹はしがみついて肩を震わせ静かな嗚咽を漏らした。その背を手のひらでそっとなぞりながらヒューは安堵し、もう僅かとなった山頂までの道のりを見上げる。大いなる九夜山は慈愛に満ちるがそれ故にか時折、深く教訓を刻まんと突き放す。平坦な安寧にばかり浸かっていてはならぬとでも諭すかのようだ。
「もう大丈夫。もう大丈夫だよ。水樹」
「うん。うん……」
水樹が落ち着きを取り戻し登攀を再開する頃、日が傾き始めた。岩壁は燃えるようなオレンジに染まり寝子ヶ浜の沖合は金色に輝く。泣きそうな胸を再び先導する水樹の揺れる尻を見上げ紛らわせた。吸い込まれそうな空だった。
山頂にテントを張ると二人は食事を取る暇もなく瞬く間に眠りへと落ちた。張りつめた緊張がぷつりと途切れれば肉体を支配する疲労に抗えなくなったのだ。
翌朝は凛と鈴めいた風の音に目を覚まし早くに起き出した。まだ日も上がらぬうちだが鳴き叫ぶ腹の虫に急かされながらにコンロとフライパンを取り出し、卵を焼いてオープンサンドをこしらえた。
「美味しいわね」
「うん。それにこの景色が最高のスパイスだね」
「ふふっ、そうね。本当に」
食後にコーヒーを淹れてカップをかつんと合わせた瞬間だった。
「あ……」
東の稜線に煌めく日が昇る。陽光が帯となり差し込み、緞帳が上がるように輝きを増してゆく。
「…………」
言葉を飲み込みただ見つめた。水樹の目尻からは雫がこぼれて頬を伝う。ヒューは彼女を抱き寄せ腕の中へと収めた。煌々として始まりを告げる日の光と互いの温もりだけが世界に満ち、音もなく声もなく、ただ風の運ぶ澄み切った空気の冷たさが心地よく彼らの肌をなぞった。
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あとがき
担当マスター:
網 透介
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網です。
山を知らない人が書く登山のお話でした。
山登りはどうも縁遠いのですが、憧れはあります。苦労を重ねたどりついた山頂で見る絶景、味わう食事の美味、心地良い疲労と達成感はきっと格別なことでしょう。
いつか挑戦してみたいものですが、山とは同時に危険な場所であるとも思います。生半可に挑むと痛い目を見るどころか多方面に迷惑をかけてしまうことにもなりかねないとのことで、中々踏ん切りの付かない私です。
でも、いつかは。
それではまた次回に。
網でした。
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担当ゲームマスター
網 透介
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
冒険
動物・自然
NPC交流
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2025年10月04日
参加申し込みの期限
2025年10月11日 11時00分
アクション投稿の期限
2025年10月11日 11時00分
参加キャラクター一覧
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