ある休日の一日｜リアクション

ある休日の一日

　夕方、また客が増えてきた。用事を終えて、帰り道に寄る人が多いのだろう。
　遠矢護もそれと同じで、他の買い物のついでに『キムンカムイ』に立ち寄った。
「前買って美味しかったから……」
　中の様子を伺うように、そして遠慮気味に、店内に足を踏み入れる。
「こん、にちは」
　護が好んでいる、玉子を使ったパンは今日もあるだろうか。
　トレイとトングを持って、居並ぶパンの中から目当てのパンを探す。
「あった」
　偶然にも前回来店したときに買ったのと同じ玉子を使ったパンだ。
　躊躇うことなく、１つトレイに取る。
「それから……あ、ご、ご、ごめんなさい……」
　他のパンを買おうかなと悩むことに意識が集中していたのか、護は危うくマキナにぶつかりそうになった。
　これから帰るところだろうか、手にパンの詰められた袋を提げている。
「大丈夫だよ。パン、これも美味しかったよ、はちみつミルクパン」
　マキナに薦められたパンを、トレイに取る。
　マキナが常連かどうかは分からないが、他の人が美味しいと言ったパンならば、買ってみたいと思ったのだ。
　護は思うままにトレイにたくさんのパンを乗せていった。
　その様子を見て、マキナが驚く。
「君もたくさん食べるんだね」
　護はそこで初めて自らのトレイの状態に気づいた。
（あ、わわ、こんなに乗せちゃった……でも返すのもアレだし……寮の人達にあげようかな……）
　という心の声で代弁して、少し顔を赤らめる。
　マキナは護の赤面した表情が見えなかったらしい。
「ごちそうさま。また買いに来るよ」
　笑顔でレジに告げると、店の外へ出て行った。
　マキナが笑顔を見せた先、店員がいるであろうレジに護は目を向ける。
　そこにいたのは、クラスメートのマリナだった。
（マリナさん頑張ってるなあ……僕もバイトとかした方がいいのかなあ）
「護、また来てくれたんデスね！　パン、ここで食べてくデスか？　それともお持ち帰りデスか？」
「朝ご飯用のパンは、持って帰りたいし……これ以外は袋詰めして貰ってもいいですか？」
　マリナは頷き、慣れてきた手つきで袋に詰める。
「どうぞデス！」
「あ、ありがとう……その、お疲れさまです……」
　小声だったが、マリナは聞き取ったらしい。
　マリナは、とびっきりの笑顔を向けた。