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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
ムーンライツ・ブルームーン
煙草を口から落としかけ慌てて受け止めた。夜の青空は異景だ。水槻 清恋は思わずまぶたを二度三度と開け閉めしたがしかし、喫煙室の窓から覗く空はやはり鮮やかに色づいている。青い月が煌々と天頂に輝いていた。
宿直勤務も残り１０時間を切った。いわゆる当番であった。連続２５時間勤務という警察官の負う冗談のような業態を噛みしめながら耐えに耐えるも、そろそろ疲れが身に染みてくる頃だ。いかに清恋が鉄の意思の持ち主だとて一度の休憩も挟まずとはいかない。幸いにして今日は事件の報もなく平和そのものであるから、少しばかり一服しても罰は当たるまい。そう思っていそいそと喫煙室へやってきたら、これだ。
「何なのよ……」
呟くも半ば得心してはいる。この島で刑事として勤務するに当たっては数多くの奇怪な現象を目の当たりにしてきた。大なり小なり、そのような事柄と対面するのは茶飯事だ。これもきっとその一つなのだろう。
とはいえ今夜の異変は中々に規模が大きいようだ。何しろ人類が概ね触れ得ぬ天文の分野にまで影響を及ぼしているのだから。見よあの月を、まるで蓄光ペンキでもぶちまけられ昼に蓄えたエネルギーの全てを青き光条として解き放つかのようではないか。
「はぁ」
溜息と共に、気を取り直し煙を吐く。今のところ危険な兆候は見られない。しかし警戒は必要だろう。胸の奥に少しばかりのざわつきがあった。清恋のこんな時の勘は存外当たるのだ。
月光と犯罪発生率の相関性についての論文を読んだことがある。満月の夜に人々は昂り血生臭い事件が起きがちであるというあれだ。ほとんどオカルトの領域でありながら、清恋の担当してきた数々の事件簿の中には確かにその裏付けを感ずるケースが少なからず含まれていた。程度の差はあれやはり月の光は人を狂わせるのではないだろうか。
胸のざわつきは収まらず、煙をゆっくりと吸って吐き出す。それを幾度となく繰り返したが夜の青さは変わらなかった。
「……！？」
しかしそのうち、空に変化が起こった。
「……巨大な……」
腕だ。純白に近い青ざめた肌をした腕が空より伸びてきて、直下の街へ向かい降りてゆく。いや待てと清恋は頭を振った。自分は今寝子島警察署の中で勤務しているのではなかったか。警察署がこんなにも……雲を突き抜ける程の高層建築物であるはずがない。いつの間にこんな、地上数百メートルもの上階へ上がったというのだ。青みを帯びたビル風に思わず自らの肩を抱く。
白い腕は何か物色するように幾度か直下の街並みの上で逡巡し、やがて広い路地から何かを指でつまみ上げた。人だ。髪を金色に染め、どこかチンピラ然とした若い男だった。男はじたばたと暴れて腕から逃れようと試みているが、つまみ上げられるままに空の向こうへと運ばれていった。
男の姿が見えなくなったところで、今度は青い空から何かが落ちてきた。いや、吊り下げられている。先ほどの男だ。手錠に足枷を嵌められ身動きとれぬまま、繋がれた長大に過ぎる鎖によって上空にぶらりと吊るされているのだった。
再び腕が天上より伸びてくると、街から一人を選びつまみ上げる。そして空から鎖で吊るしてゆく。年経た男もいれば何の変哲もないような女性、若い男女、吊るされる者に老若男女の区別はないように思える。身を捩り大声を発しあくまで抵抗を止めぬ者、諦めたそぶりでぴくりともせぬまま吊られる者、様々であるがどうやら彼らには共通点があるらしい。といっても清恋が察するところの推測ではあったが。
「犯罪者。なのかしら」
白い大腕はこの街において何らかの執行機関、あるいは警察機構の象徴であるようだ。腕は幾度も街へ伸び、不心得者を吊り下げ晒し者としてゆく。街はさぞ平和なことだろう。上空の遥か高みより監視する何者かの手から逃れられようはずもない。この街にはきっと刑事も警察官もいないのではなかろうか。人々が悪辣な犯罪に怯え眠れぬ夜など存在しないに違いない。
清恋は肺一杯にメンソールの香りを吸い込む。そうするうちに見知らぬ街の造形や大腕、吊られた犯罪者たちの姿はぼやけ、空には青くもない見慣れた月が浮かんでいる。ゆっくりと煙を吐き出した。
あの大腕の主が警察組織の長たるものであるなら、清恋はその指の一本ですらないだろう。腕を構成する末端神経のひとひらといったところか。自嘲気味にふと口角を緩める。そうと悟ったとて何が変わろうものか。
しかし今しがた目にした光景を清恋は深く胸に刻み込んだ。そうせねばなるまいと感じた。矜持と共に奥底へ記憶をしまい込み、煙をもう一つ吸い、吐き出すと、清恋は何事も無かったように自身のデスクへ戻っていった。
宿直勤務も残り１０時間を切った。いわゆる当番であった。連続２５時間勤務という警察官の負う冗談のような業態を噛みしめながら耐えに耐えるも、そろそろ疲れが身に染みてくる頃だ。いかに清恋が鉄の意思の持ち主だとて一度の休憩も挟まずとはいかない。幸いにして今日は事件の報もなく平和そのものであるから、少しばかり一服しても罰は当たるまい。そう思っていそいそと喫煙室へやってきたら、これだ。
「何なのよ……」
呟くも半ば得心してはいる。この島で刑事として勤務するに当たっては数多くの奇怪な現象を目の当たりにしてきた。大なり小なり、そのような事柄と対面するのは茶飯事だ。これもきっとその一つなのだろう。
とはいえ今夜の異変は中々に規模が大きいようだ。何しろ人類が概ね触れ得ぬ天文の分野にまで影響を及ぼしているのだから。見よあの月を、まるで蓄光ペンキでもぶちまけられ昼に蓄えたエネルギーの全てを青き光条として解き放つかのようではないか。
「はぁ」
溜息と共に、気を取り直し煙を吐く。今のところ危険な兆候は見られない。しかし警戒は必要だろう。胸の奥に少しばかりのざわつきがあった。清恋のこんな時の勘は存外当たるのだ。
月光と犯罪発生率の相関性についての論文を読んだことがある。満月の夜に人々は昂り血生臭い事件が起きがちであるというあれだ。ほとんどオカルトの領域でありながら、清恋の担当してきた数々の事件簿の中には確かにその裏付けを感ずるケースが少なからず含まれていた。程度の差はあれやはり月の光は人を狂わせるのではないだろうか。
胸のざわつきは収まらず、煙をゆっくりと吸って吐き出す。それを幾度となく繰り返したが夜の青さは変わらなかった。
「……！？」
しかしそのうち、空に変化が起こった。
「……巨大な……」
腕だ。純白に近い青ざめた肌をした腕が空より伸びてきて、直下の街へ向かい降りてゆく。いや待てと清恋は頭を振った。自分は今寝子島警察署の中で勤務しているのではなかったか。警察署がこんなにも……雲を突き抜ける程の高層建築物であるはずがない。いつの間にこんな、地上数百メートルもの上階へ上がったというのだ。青みを帯びたビル風に思わず自らの肩を抱く。
白い腕は何か物色するように幾度か直下の街並みの上で逡巡し、やがて広い路地から何かを指でつまみ上げた。人だ。髪を金色に染め、どこかチンピラ然とした若い男だった。男はじたばたと暴れて腕から逃れようと試みているが、つまみ上げられるままに空の向こうへと運ばれていった。
男の姿が見えなくなったところで、今度は青い空から何かが落ちてきた。いや、吊り下げられている。先ほどの男だ。手錠に足枷を嵌められ身動きとれぬまま、繋がれた長大に過ぎる鎖によって上空にぶらりと吊るされているのだった。
再び腕が天上より伸びてくると、街から一人を選びつまみ上げる。そして空から鎖で吊るしてゆく。年経た男もいれば何の変哲もないような女性、若い男女、吊るされる者に老若男女の区別はないように思える。身を捩り大声を発しあくまで抵抗を止めぬ者、諦めたそぶりでぴくりともせぬまま吊られる者、様々であるがどうやら彼らには共通点があるらしい。といっても清恋が察するところの推測ではあったが。
「犯罪者。なのかしら」
白い大腕はこの街において何らかの執行機関、あるいは警察機構の象徴であるようだ。腕は幾度も街へ伸び、不心得者を吊り下げ晒し者としてゆく。街はさぞ平和なことだろう。上空の遥か高みより監視する何者かの手から逃れられようはずもない。この街にはきっと刑事も警察官もいないのではなかろうか。人々が悪辣な犯罪に怯え眠れぬ夜など存在しないに違いない。
清恋は肺一杯にメンソールの香りを吸い込む。そうするうちに見知らぬ街の造形や大腕、吊られた犯罪者たちの姿はぼやけ、空には青くもない見慣れた月が浮かんでいる。ゆっくりと煙を吐き出した。
あの大腕の主が警察組織の長たるものであるなら、清恋はその指の一本ですらないだろう。腕を構成する末端神経のひとひらといったところか。自嘲気味にふと口角を緩める。そうと悟ったとて何が変わろうものか。
しかし今しがた目にした光景を清恋は深く胸に刻み込んだ。そうせねばなるまいと感じた。矜持と共に奥底へ記憶をしまい込み、煙をもう一つ吸い、吐き出すと、清恋は何事も無かったように自身のデスクへ戻っていった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2025年09月12日
- 参加申し込みの期限
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- 2025年09月19日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2025年09月19日 11時00分
