寝子島ラーメン戦争｜リアクション

寝子島ラーメン戦争

楡宮遠海は寝子高在学中に結成したガールズバンド『衝動少女』のキーボーディストとして活躍中だ。大学時代にメジャーデビューしてから7年目。すっかり人気バンドの仲間入りを果たし、新曲が始まったばかりの春アニメのオープニングに採用されてさらにブレイクしている。
その日寝子島 Loosey」での4時間に及ぶライブを終えた。遠海もメンバーも客も大いに熱く燃え上がった。思いっきり完全燃焼だった。
シャワーを浴びて汗を流してもまだ身体の芯で熱いものが燻ぶってる。
　私服に着替えながら、遠海はお腹に手を当てた。
「うーん」
　多少の休憩はあったとはいえ、四時間ぶっ通しのライブ、そういえば今日はしっかりとした食事を摂れていない。
　そう気づいてからは空腹感が増した。
　控室に戻ると、着替えを終えた皆が集まっていた。
「遠海、皆で何か食べに行かない？　って話をしてるんだけど」
「あ、それ、いいね」
　意見が全員一致だ。そうすると、次は何を食べるかという話になるが。
「はい！　今凄くラーメン食べたい」
　星野アカリが元気よく言った。反対意見はなかったので、一先ずラーメン屋に行くことになった。近くにあるらしい評判のラーメン屋だ。「手打ち麺嵐」という店らしい。
店は徒歩で行けるくらい近場だった。
空いている時間だったのか、すぐに席に着くことができた。
　おすすめは鳥白湯ラーメンらしい。
「皆、どうする？」
　遠海が問うと、やはりおすすめの『鳥白湯ラーメン』だそうだ。
　注文してしばらくすると、それが運ばれてきた。
　良い香りが漂い、お腹が小さく鳴った気がした。
「うわ～。ラーメンじゃないみたい」
　アカリが言ったように、それはまるでフレンチ料理のような一品だった。白いスープ、点々と赤いソースのような物がスープに浮かんでいる。麺の上には赤身がかった柔らかそうなステーキ、切り方は薄めでローストビーフのようだが、赤ワイン入りのソースがかかっている。
「な、なんかコース料理で出そう」
　確かに見た目はちょっと高そうな料理だ。
「頂きます」
　遠海は箸ですくって麺を口へ。
「ん、美味しい」
　口の中で良い香りが広がり、麺に絡んだ濃厚なスープが味わい深い。薄く切ったステーキのような具材も麺に良くあう。
（初めての味。斬新なメニューが多いのかな）
　箸とレンゲで少しずつ冷ましながら麺をすすり、メニューに目を通す。
「……みんな、これ頼もうと思うんだけど」
　遠海が言うと、皆目を瞬かせた。
「い、行ける？」
　アカリを初めとした皆が、恐る恐る聞いてくる。
「大丈夫。せっかく来たんだし。すみません、このステーキと餃子の麺詰めラーメンスープ、大盛りで」
　一つだけ存在した大盛りメニュー。この店のすべてを詰め込んだそれは、とんでもない量の特盛ラーメンだった。正確には巨大な餃子の中に麵とサイコロステーキが詰まっていて、たっぷりなスープに具材と一緒に浮かんでいるというカオスである。このメニューだけあえて雑な感じになっているのは狙いなのだろうか。
運ばれてきたそれは、かなり幅を取るもので、カトラリーがついていた。
「いただきまーす」
　皆がごくりと息を飲んだ。
「凄い光景」
「ラーメンと餃子にフォークついてるの初めてみた」
　餃子の中に詰まった柔らかめの麺がスープによく合っていて、大満足の味だった。

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