まとめてハッピーバースデー♪　４月から６月まで☆｜リアクション

まとめてハッピーバースデー♪　４月から６月まで☆

　1372年5月3日。
　稲積柚春の指には、お台場で購入したペアリングが光っていました。
　もちろん、隣を歩くウォルター・Bの指にも。
　二人が訪れたのは鎌倉文学館。
　あいにく休館中ですが、庭園は解放されており。
　ゴールデンウィークでどこも混んでいる中、美しいバラ園は賑わっていましたが、緑が深い西洋風庭園はぽっかりと開いたエアポケットのように人が少なく静かでした。

（まだワットが「ウォルター先生」なのを忘れてないけど、でも休日の今は少しくらい……）
　そう思いながら、柚春はウォルターに声をかけます。
「先月は誕生日プレゼントありがとう」
　４月１日に貰ったのは、華やかな中にも落ち着きを感じさせる少し大人っぽいルージュの口紅。
　ゴールドのパッケージに、シンプルなブロック体風のフォントでYUZUHAと名前が刻まれていました。
「お気に召したかなぁ？」
　ウォルターはお菓子でもあげたかのようにこともなげに言いますが。
　憧れのブランドに気づいたとき、柚春はその意味にドキドキしてしまったのです。
「まだ早いかなと思ったから今日はつけてないけど、似合うようになるの、楽しみに待っててね」
「ああ」

「それから……誕生日おめでとう！」
　柚春はウォルターにプレゼントを渡します。
「これは、シンプルでいいねぇ」
　包みを開けネイビーの落ち着きあるレザーベルトを見て、ウォルターは目を細めます。
　バックルには小さな青いストーンが埋まっていました。
「以前のストーンと揃うんだよ。それと、裏も見てほしい」
　ベルトを裏返したウォルターは、手刺繍で「For the one I admire most　Y.I to」と刻まれているのに気づきました。
　その職人のものらしい手刺繍の横に、素人のものらしい刺繍もありました。
「W.B」と。

「つけると見えないけど……ちゃんと、僕の気持ちを込めたくて頑張ったんだよ。生徒の僕から先生のあなたへ最後の誕生日プレゼント」
「……ありがとう。しっかり受け取ったよぉ」　
　ウォルターは、柚春の髪を優しく撫でました。
　柚春は目を閉じて、ウォルターのシャツの胸に頬を寄せるのでした。

　
　先生と生徒の期間はまだ長いけれど。
（来年は、違う形でこの日を迎えていると嬉しいな）
　柚春は心から願うのでした。