待ちに待ってた、海開き♪｜リアクション

待ちに待ってた、海開き♪

◆寝子島らしさに触れる

　八神修は寝子島高校を卒業後、東大生として日々を過ごしていた。
　東京在住だが休みには時々寝子島に帰って泊まっている。今日もいつものように寝子島に帰ってきた。

「今日は天気が良いな」

　眩しく照らす太陽を手をかざしながら見上げる。折角だと思い、自宅にあるバイクをゆっくりと屋外へ運ぶ。修はバイクで島を一周する途中で砂浜の近くを通った。バイクを道路脇に寄せて停止させると、見慣れた景色に目を向ける。周囲を見回すと、ふと海の家が見えた。

「そうか、今日は海開きか」

　折角の海開きだが、水着を買って泳ぐか一瞬迷う。

「一人で泳いでもなあ……」

　彼の口から苦笑いがこぼれる。どうせなら海は恋人や友人と来たい。それでも浜までは行こうとバイクから降りた。
　海の家は何軒かあり、水着の貸出や飲食物を提供していた。海には入らないとしても、こういったところに立ち寄るのは面白そうだ。

「あっちはイベントか」

　ビーチに設置されたアスレチックやパフォーマンスをするステージが見える。どう過ごそうかと考えていると良い香りに誘われる。向かった先には『焼きそばグランプリ』の看板が立っていた。全国のご当地焼きそばやオリジナル創作焼きそばが集結している。
　修は各種焼きそばを眺め、店員に特徴を聞いて１つに絞り込んで買った。それを持って海の家に向かう。そこでペットボトルの水も買った。
　使い捨ての容器に蓋をしただけの焼きそばと、ペットボトルの水。ここに海の家というシチュエーションが加わると、夏の香りが一気に強くなる。扇風機の風をのんびり浴びながら焼きそばを食べる。食べ終えた彼は満腹感とこの場の雰囲気に浸る。

（持参のタブレットで読書も良いな）

　この空間で過ごす時間はとても贅沢に感じられた。

「にゃーん」

　ふと足元から猫の鳴き声が聞こえる。目線を向けると三毛猫が修の足元でくるくる回っている。

「相変わらず猫が多いね」　

　寝子島の猫たちは人に慣れていて、修が手を近づけても逃げない。それどころか構ってほしそうに指に絡んでくる。それに応えるように修は猫の相手をする。

（和む……）

　猫はしばらく修の指に夢中だったが、焼きそばに気づくと視線が釘付けになった。

「ダメだよ、猫には塩が多すぎる。君にはこっち」

　修は魚味のクッキーサンドを取り出した。高校時代から鞄に猫のオヤツを入れているのが活きた。猫は修の手からそれを受け取ると、美味しそうに食べ始めた。
　水も飲むかなと思い、手のひらを窪ませて水を注ぐ。こぼれないように猫の口元に運ぶと、元気に飲み進めていく。

「今日はちょっと暑いもんな……」

　日陰とはいえ、熱気は海の家でも感じ取れる。彼は焼きそばの蓋を地面に置くと、そこに水を入れた。連れて帰るわけにはいかないので、ここで沢山構いたい。
　そうして遊んでいる内に蓋に入れた水も猫が飲み干していた。去り際に七夜あおいに送る写真をスマホでパシャリ。海の家、猫、海岸。それらが写り込んだ１枚だ。

「そろそろ行くか」

　修はバイクに跨ると、寝子島一周を再開した。

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