雨宿りと不思議なテラス｜リアクション

雨宿りと不思議なテラス

【ホラー漫画のような？】

　朝鳥さゆるが大学生兼キャバ嬢になって一月が過ぎた、５月中旬ごろの夜。
　彼女は、恋人で同棲相手で職場の同僚でもある姫木じゅんと共に仕事を終え、帰宅途中だった。
　そこで突然、土砂降りの雨に見舞われた。
　あっという間に全身ずぶ濡れになった二人は、目についた家の軒下に飛び込んだが、雨は一向に止みそうにない。下手すれば、一晩ここで過ごすしかない勢いで、二人はこれだけ濡れたら同じことと、土砂降りの中に飛び出した――はずだった。

　なのに、二人はなぜか屋内にいた。
　そこは広々としたテラスで、外にはさっきまで二人がいた場所が広がっている。
「どうなってるの？」
「しばらくここで、時間潰せってことじゃない？」
　きょとんとするじゅんに、さゆるは答えながら考える。
（もれいびじゃないじゅんに、神魂がどうのと説明しても、たぶん理解できないわよね。……いや、アニオタの彼女なら……どうかな？）
　とりあえず彼女たちは、そこにある二人掛けの席に腰を下ろした。
「すっかり冷えたから、なんか温かいものが飲みたい」
　じゅんの言葉に、同感だとさゆるが思った時、どこからともなく、ウエイトレスと思しい形の影がやって来た。二人の前にそれぞれホットコーヒーを置いて、立ち去って行く。
「まるでホラー漫画みたい」
　笑って言うじゅんに、さゆるは苦笑した。
　じゅんがさっそく、コーヒーを手に取り、口にする。
「美味しい。それに、すごく温まる」
「ほんとね」
　さゆるも自分の分を口にして、うなずいた。

　ややあって、二人はすっかり温まり、濡れた服も渇いていた。
（温まったら、何か食べたい気分ね。コーヒーに合うスイーツとかあるといいかな）
　さゆるが考えた時だ。再び影のウエイトレスが現れ、二人の前にチョコタルトと新しいコーヒーのカップを置いて去って行く。
「便利ね。あたしちょうど、コーヒーに合うスイーツが食べたいって思っていたのよ」
「あたしもよ」
　じゅんの言葉に、さゆるもうなずいた。
　しばし黙って二人は、タルトとコーヒーを口にする。
　が、ややあって、じゅんが満足げに吐息をついたあと、口を開いた。
「なんだか、昔読んだホラー漫画を思い出したわ」
「ふうん。どんな話？」
　さゆるが水を向けると、じゅんは話し出す。
「道に迷った少女が、森の中で一軒の家にたどり着くの。その家には、おばあさんが住んでいて、少女が何も言わないのに、食べたいものを次々と出して来るのよ。それも、町まで距離のある森の中では、材料が手に入らないだろうってものもあって、少女は次第におばあさんを不審がり始めるの」
「へぇ……。それで？　そのおばあさんは何者だったの？」
　さゆるの問いに、じゅんは秘密めかして、声をひそめた。
「おばあさんの正体はね……」

　そのあとも、じゅんのホラー漫画に関する思い出話は続き――そんな中、空のカップを置いた彼女が、ふと外をふり返り、目をすがめて闇の向こうを透かし見る。
「雨が上がった……の？」
　彼女が呟いた瞬間、二人は軒下にいた。
「え？」
「あ……！」
　二人は思わずあたりを見回す。雨は止んでいたが、彼女たちはずぶ濡れのままだ。
「体は温まってるけど、服はずぶ濡れのままだわ」
「あそこでは、渇いていたのに……」
　二人は吐息をついて、顔を見合わせる。
「とにかく、雨は止んでるし、帰ろう」
「そうね。帰って温かいお風呂に入りたい」
　言うと、彼女たちは軒下を出て走り出したのだった。

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