雨宿りと不思議なテラス｜リアクション

雨宿りと不思議なテラス

【お狐さんに化かされた？】

　４月下旬の京都市内。
　京大に入って二年目の北里雅樹は、恋人の坂本美優と一緒に授業とサークルを終えて、帰宅途中だった。
　学部の違う二人にとっては、会う口実のために入ったテニスサークルと、大学からの帰り道は一緒にいられる貴重な時間だ。
　と、突然のゲリラ豪雨に二人は慌てた。
　雨宿りできるところ……と探してみつけたコンビニに飛び込んだ二人だったが――そこはコンビニではなかったのである。

　人もおらず商品もない店内は、テラスになっていて、さっきまで二人がいた通りが見渡せた。
　彼らは、いくつか並ぶ席の一つに、隣り合って腰を下ろした。
「こんなところに、カフェとかあったん？」
「わからん」
　訊いて来る美優にかぶりをふって、雅樹はテーブルの上を見る。メニューらしいものはない。
（これじゃ、注文のしようがないな。……妙に腹が減ったし、スパゲティナポリタンが食べたいんだが）
　眉をしかめて彼が考えていると、ウエイターと思しい形の影が、料理を運んで来た。
　雅樹の前には、ナポリタンとアイスコーヒーが、美優の前にはホットケーキとアイスコーヒーが並ぶ。
「まるで、俺の考えてたことが、わかったみたいだ」
「雅樹もそれ食べたいと思てたん？　私もホットケーキ食べたかってん。……けどこれ、食べても大丈夫やろか」
　呟く雅樹に美優が言う。
　雅樹は思わず、目の前のナポリタンを睨み据えた。
　結局彼は、食欲をそそる匂いに勝てず、ナポリタンを一口食べる。
「あ、このナポリタンうまいな」
　食べると空腹感が更に増して、彼は続けてそれを口にする。
　その様子に、美優もホットケーキを一切れ、口に入れた。
「このホットケーキも美味しい」
　言って、美優も目を輝かせる。

　しばらく無言で食事をしたあと、つと美優が顔を上げ、外を見やった。
「なんやこう……不思議な場所やね。悪くはないけど。雨もしのげるし、食べ物は美味しいし」
「だな」
　うなずきつつ、雅樹はふと考える。
（寝子島ならともかく、京都でこんな不思議な目に合うとはな）
「案外、お狐さんに化かされたんかも」
　そんな彼に、美優が苦笑しつつ言った。
「狐？」
「伏見のお稲荷さんとか、あるやん」
「ああ、なるほど」
　美優の言うこともなんとなくわかると、うなずく雅樹。
　ほどなく二人は、食事を終えた。
　と、雅樹のスマホにSMSの着信があった。開くと知らない相手からで、「雨が上がった」とだけ書かれている。
「雨が上がった？」
　それを見て、雅樹は思わず呟いた。

　途端、気づくと二人はコンビニの前の通りに立っていた。雨は上がっている。
「え？」
「あれ？　なんで外？」
　あたりを見回して、二人は思わず顔を見合わせた。
「本当に、狐に化かされたのかもな」
　吐息をついて言う雅樹に、「かもなぁ」と美優も同意する。そして彼女は、笑いながら「ホットケーキ、美味しかったなあ」と呟いた。
　そんな彼女に、雅樹は声をかける。
「雨も上がったし、帰ろう」
「うん」
　うなずいて、美優は彼の横に並ぶ。そして二人は歩き出した。

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