二時間らっかみサスペンス　湯煙の向こうの美女と空飛ぶサメ｜リアクション

二時間らっかみサスペンス　湯煙の向こうの美女と空飛ぶサメ

『は？　火土温泉郷でサメが空飛んでりんごを強奪する事件が起こって、それを解決してたから執筆どころじゃなかった？　何言ってるんですか先生』
『いやその、締め切り守れなくてごめんなさい』
　じゅんの名乗りの後、サメ乃助と柳川教授は涙ながらに抱き合って（教授は水中でモゴモゴ言っていたが）和解し、方々に謝罪行脚。
　その後、想花の提供した『子リス印のりんごゼリー』を二人で食べて一件落着となった。
　向学館は『子リスのお菓子屋さん』の原作漫画の出版社であり、お付き合いで頂いたゼリーが、想花の冷蔵庫に入っていたことを、唐突に思い出したからである。
　もちろんふさわしい支払いはしてもらったのだが、数時間の往復などしていてはもちろん締め切りには間に合わず、担当編集にメッセージアプリで謝罪する羽目になった。

『先生は作家なんですよ？　言い訳するにしても、もっとうまーく人をノセる言い訳を考えて下さい！』
『え、えーと、そのサメはりんごゼリー食べたさに、温泉郷中のりんごに襲いかかるという犯行を重ねてたんですよ、本当に！』
『あーはいはい、新作のネタの前に、推理小説仕上げて下さいね？　私が関係各所に掛け合って、締め切り二週間伸ばしてもらえるようにしますから、ね！』
『あぁ、信じてもらえない……本当なのに……』
『サメが空飛ぶなんてウソつかなくても、怒ってませんから。必ずですよ、二週間後にね！』
　アプリでのやりとりを終え、想花は列車の窓から過ぎゆく温泉郷の風景を眺めた。

　今頃、柳川教授とサメ乃助は、謝罪行脚の続きをやっていることだろう。
『子リスのお菓子屋さん』に出演していた女優絢とその連れ真優理、聖地巡礼をしていたじゅんとさゆるは、復活したりんご風呂を堪能すると言っていた。

（それにしてもさゆるさん、じゅんさんに気づかせないサポートが冴え渡ってたな……余程長い付き合いなんだろう）

　想花が二人と行動していたのはわずかな間だが、即座に『二サス探偵団』の原作を読み終え、サメ乃助が立ち回りそうなところを予測して、原作の台詞を交えながらじゅんの推理を導く様は実に堂に入ったもので、想花は感心しきりだった。

（締め切りが無ければ、ぼくももう一泊くらいして温泉を味わいたかったなぁ）

　そこまで考えたところで、目蓋が重くなってきた。

（ゼリーを取りに行くのに疲れたし……乗り換えまでは一時間くらいあるから、少し眠るか）

　リュックサックを抱きしめて顎を乗せ、目を閉じる想花。
　その横顔を、車窓から差しこむ朝日が照らしていた――。

　――名前のない猫のように　私は気まぐれなの
　
　――どうして私を通り過ぎたの？

　――いつも傍にいられる訳じゃないのに

　――もう忘れてしまったかしら　名前のない猫のこと

　――急ぐ旅の途中　たまには振り返ることもある

　――でも私　尻尾を上げて　もう戻らないわ

　～～主題歌：登良貴代／Nameless Cat～～

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

皆さま、こんにちは。

『二時間サスペンスはお約束な展開が好き』な陣　杏里です。
皆さまが頭の中で思い浮かべたのは、どんな二時間サスペンスでしたでしょうか？
葬儀社の社長令嬢とか、ツアーバスのコンダクターとか、色んな名探偵を思い浮かべながらお読み頂くと楽しいと思います。
ＣＭ前のアイキャッチと、主題歌も（文字だけで）作っておきましたので、どうぞお好きな脳内ＢＧＭを流しながら二時間サスペンスの世界にひたって下さいませ。

空飛ぶサメにお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
皆さまのすてきな二時間サスペンスライフを願ってやみません。

ではこの辺で、失礼いたします。

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