太陽の島にて｜リアクション

太陽の島にて

　朝永真深が空を見上げると、真っ青だった。撫でるようなそよ風が吹き抜けている。
「はあ、春の陽気は気持ちいいね」
　暑くも寒くもないことが幸せだ。
「うん、ほんとうに丁度良い感じ……」
　一緒に出かけている手島ゆかりの視線が道路の反対側の若い男女へ向く。カップルのようだ。
「うーん。わたしにも春、きてほしい」
　その呟きに苦笑を浮かべる真深。
「彼氏ってことね」
　そんなやり取りをしつつ、真深がスマホを取り出した。
「さて。この近くのはず」
星ヶ丘の自宅がだだっ広くて落ち着かないのでゆかりを誘って出てきたわけだ。ちなみに水泳部の練習も休みである。
「絶対見えずらいところに立ってるよね」
　ゆかりが言う。
　真深は待ち合わせをする前のNYAINEのやりとりを思い出す。
Nyanstagramを開いた時に気になったのだ。寝子島イリュージョンランドの廃墟を写した画像がバズっていた。

ゆかり「あ、これ綺麗」
あたし「どこなのかな……寝子島イリュージョンランド？」
ゆかり「場所は……案外近いね」
あたし「面白そうだよね」
ゆかり「じゃあ行ってみる？」
あたし「行く！」

　真深はゆかりとともにロープウエイに乗って、少し草の伸びた道を進むことに。ネットで調べた通り、誰かが道を管理しているらしく、歩きやすかった。
「あ、右かな？」
　ゆかりが呟いた先には分かれ道、塗装が剥げた看板は倒れていて矢印の方向はあてにならなさそうだ。
「とりあえず、進んでみよ」
真深とゆかりはなんとなく右の道へ。
しかし、道の先はすぐに崖だった。
「わっ」
「きゃっ」
　草が生い茂っていて分からなかったが、三メートルはある崖が目の前に現れたのだ。
　お互い、身を寄せ合ってごくりと息を飲みこむ。
「き、気をつけないとね」
「そういえばNyanstagramにも注意って書かれてたかも？」
　ゆかりが思い出したように言う。真深も確かに覚えがあった。
　ドキドキしながら、後退し、分かれ道まで戻ってきた。今度は左の道へ。すると、すぐに木々の間から、朽ち果てた建物が姿を現した。
「す、すごい」
　建物は蔓で覆われ、風化しかけているコンクリートや木製の壁が混ざり合い、一つの芸術作品に見えた。
「スマホの待ち受けの壁紙にしても違和感なさそう」
　ゆかりが呟いたので、真深が廃墟を一枚撮る。
「どこを切り取っても、現実っぽくないね」
　風で揺れる蔦、それ以外の音は不思議と聞こえない。
「ゆかり、そこ立ってて」
　スマホを構え、ぱしゃりと一枚。
「うーん、絵になる」
　ゆかりの振り向きざまの写真は、「お嬢様」感が出ているような気がする。
「じゃあ、真深もそこに立って！」
「うん」
　いつもの写真のノリでピースをしてみる。
「駄目だって、空を見ながら歩いてる感じで」
「えー？」
　実際やってみたら、絵になる一枚になっていた。
「ここなら、映える写真たくさん撮れそうだね！」
　お互い廃墟の色々なところで、モデル並みのポーズをして撮りあった。最後に二人で桜と廃墟を前にして記念撮影をして仲良く帰ったのだった。

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