桜花舞うあやかし温泉｜リアクション

桜花舞うあやかし温泉

　1373年。
　高校も卒業して18歳になった稲積柚春は、ウォルター・Bを家に招いてGWの相談をしていました。
「いつもお疲れさま。箱根に行きたいって言ってたよね。保養も兼ねて、温泉に行かない？」
　柚春が提案すると、ウォルターは頷きました。
「僕はのんびりできればどこでもいいよぉ。でも、連休はどこも混むよねぇ」
「うーん、それはそうだけど……」
（GWは渋滞するし、ワットに運転を任せるとどうしても疲れさせてしまうよね……）
　考えつつ柚春は立ち上がりました。
「そうだ、新しいサシェを作ったんだ。取ってくるね」　
　ウォルターに渡そうと、部屋に取りに行こうとしてドアを開けた柚春は、その場で固まりました。
「え、何……？」
　立ち上る湯気。
　硫黄の香りの温かな風。
「おや、これは……柚春の家に温泉があるとはねぇ」
　ドアの向こうを見たウォルターも、目を丸くしながら立ち上がりました。
「危険はなさそうだし……行ってみる？」
　目を見かわして頷きあうと、２人はこの不思議な現象を楽しむべくドアをくぐったのでした。

「混浴時間中、って書いてある。入ろうよ」
　木の札に書かれた文字を読み、柚春はドキドキしながら在学中のことを思い出していました。
（両想いなことを確認した在学中、混浴したことがあったっけ）
『ワット……僕を、大人にして？』
　そう言ってタオル一枚で寄り添ったあの日は、ワットにはぐらかされてしまったけれど。
「そうだねぇ、せっかくだし」
　ウォルターもその気になってくれたようで、手を振って脱衣所に向かっていきました。

（今日はあの時と違って恋人なわけだから、もっと進展があるかも？　もう子供扱いはさせないんだから！）
　そんな決意を胸に秘めつつ、男女別の脱衣所で柚春は少し悩みます。
（でも、ワットをドキドキさせられるかな……？）
　ちゃんと水着が準備してあるのを見つけ、サイズを確認しつつ。
（どうしようかな……個室じゃないし、タオルを巻いて入るのもマナー違反だよね）
　柚春としてはワットにだったら……と思っているけれど。
（ワット、嫌がるかな？）
　混浴したあの日はなんだか温泉に入って寄り添わずにはいられない気分でしたが、今日はそこまでワットがはしゃいでいる様子もありません。
　いちおう、タオルを巻いていくことにしました。

「お待たせ」
　脱衣場を出ると、タオルを巻いたウォルターがいました。
「桜が綺麗だよぉ」
　頭上に視線を向けるワットに倣って顔を上げます。
「ほんとだ。寝子島ではもう散り始めていた桜も、ここでは満開なんだね」
　目を温泉に向けると、広くてよく見えないものの湯気の向こうに数人の気配がありました。
（これじゃやっぱりタオルは外せないか）
　少し残念だけど、やはりちょっと恥ずかしい気もして。
　
　贅沢で美しい景色を味わいながら、２人はかけ湯をすると静かに温泉に身を沈める。
　寄り添って桜を見上げていると、ひらひらと花びらが舞ってきた。
　湯船に浮かんだ花びらをすくいながら、ウォルターが言った。
「いいお湯だねぇ」
「そうだね」
　頷いて、柚春は少し考える。
「ふふ、今日楽しめたなら連休は違う場所がいいかな？　それとも、日帰りだと慌ただしいし……泊まりで出かける？」
　なんだかふわふわした気分になってきて、柚春はウォルターに甘えるようにキスをしました。
　ウォルターの白い肌が、桜色に染まっていました。
「もう遠慮しなくていいよね。恋人なんだもの」
　再び、キス。
「ワットも我慢しなくていいんだよ」
　そう言ったとき、ふいにウォルターが動き、柚春を抱きすくめました。

　耳元に優しいキス。
「もうちょっと、我慢しないとねぇ」
　そうおどけて言ったウォルターは、すぐに身を離して笑ってみせたのでした。

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