桜花舞うあやかし温泉｜リアクション

桜花舞うあやかし温泉

　同棲中の城山水樹とヒュー・ヒューバートは、アパートのお風呂に一緒に入る準備をしていました。
　バスルームの扉を開けたら──そこは見慣れたバスタブではなく、夜桜が咲き誇っているのでした。
「えっ？」
　目をこすっても、そこにあるのは露天風呂でした。
（ここのところ仕事が忙しくて「たまには近場でいいから温泉に行きたいな」なんてヒューと言い合ってたけど。まさか本当に温泉？）
　水樹は、あっけにとられてヒューと目を見合わせましたが。
　せっかくのチャンスだし、と足を踏み入れたのでした。
　少し面食らったヒューも、水樹が物怖じせず先に入ったので後を追いました。
（水樹のこういうところにハラハラさせられるけど、そこに惹かれたりもするんだよな）
「見て、脱衣所があるわ」
「混浴の時間帯って書いてあるね」
「じゃあ、一緒に入っちゃいましょう」
　脱衣所には他に服はなく、誰も入っていないようです。
　二人は服を脱ぎ、タオルを手に取って露天風呂へ向かいました。
　
「ちょうどいい湯加減だわ」
　温泉に手を入れた水樹が言い、ヒューも湯桶にお湯を入れました。
　まずはお湯を全身にかけます。
「うん。熱すぎずぬるすぎず、だね。それじゃあ」
　温泉に入ると、ちょうどいい熱さが肌から染み入るように伝わっていく感じが心地よくて。
「……あぁん」　
　水樹は思わず色っぽい声で喘いでしまいました。
（確かにとても気持ちいいけど）
　ちょっと驚くヒュー。
「いまここにいるのは二人だけだよね？」
　水樹は自分でもその声に驚き、確認しながら赤面してあわててしまうのでした。
「だと思うよ」
　ヒューも少し赤面しながら、周囲を見回しました。

　やがて二人は寄り添い、恋人つなぎで手を繋ぎました。
　のんびりと夜桜を舞い散るさまを見ながら適当に会話したりそのまま過ごしていると。

　ビュー。
　一際強い風が吹いて桜吹雪が舞いました。
（幻想的な光景だ……）
　しばし見とれるヒュー。
（あ、肌に張り付いたこれは、花びら？　ヒューにも）
　水樹が肌の花びらを眺めていると──なんだか妙に身体の芯が火照ってきました。
（温泉は熱いけど、それだけじゃない……心の奥底から点った熾火のような……）
　そして、とてもえっちな妄想が水樹とヒューの脳をしびれさせ、気づけば周囲は桃色の靄に包まれていました。
　二人は身を寄せ合い、どちらともなくキスをし──
　長い長いキスでした。
（水樹……）
　求めずにはいられない昂ぶりで、ヒューは水樹の胸を愛撫し。
（ヒュー！）
　水樹もまた、心の赴くままヒューを求めてタオルを払い落とし。
　──そのまま二人は温泉の中で愛し合い……
（こんな、まるでAVみたいな展開）
　──などと思いつつも、体は正直でした。
「うっ……好きだ、水樹」
「ああっ！　ヒュー、あたしも……！」
　絶頂に達した瞬間、風が吹いてきて……

　気づけば体は離れていて、二人は妄想から覚めました。
「あ……」
「え……」
（夢？　あんなにリアルだったのに？）
　我に返り、二人は赤面したまま、しばらく何とも言えない時間を過ごしました。
　でも身体の芯の熾火が燻ぶっていて。
（きっと、お互いそうなんだ）
　続きがしたくてたまらなくなるのでした。
　しばらくして二人は風呂から上がりました。
　服を着て脱衣所を出ると、何事もなかったようにアパートの部屋につながっていて、温泉は影も形もありませんでした。

「夢だったのかな？」
「どうかな……」

　現実に戻った二人は、その夜普段よりも激しく愛し合ったのでした。

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