ファスニャハト・パレード｜リアクション

ファスニャハト・パレード

◆冬将軍

　旅鴉月詠は春の到来を祝う海外のお祭りの寝子島版『ファスニャハト』が行われることを知った。マスクは自前で用意していいと聞き、月詠はこのイベントで何のマスクを被るべきか、どんな着ぐるみをするべきか考えた。パレードは寝子島町役場から出発し、星ヶ丘まで行ったあと再び町役場に戻ってくる。そして『冬将軍』の人形に火をくべて祝う。これらの流れから月詠が辿り着いた結論は、自らが冬将軍になることだった。

（春の訪れだからこそ、あえてやってみようという酔狂な人間が私だ）
　
　あえての冬将軍。なぜなら目立つから。
　白い鎧は見た目より軽い素材でできているし、形だけだが刀も付いている。

「あと普通にカッコイイダロー？」

　手を広げて見せびらかす謎のポーズを決める。こういったイベントであえてヴィランを装う者は一定数いる。実際、冬将軍のマスクをしている人を見かけたし、その人々に月詠はグッとサムズアップを送る。

「皆にこやかに怖がってくれるものだ」

　これも祭りの楽しむ形の１つだろう。パレードの列から少し離れたところを歩く。普通に祝ってはいるが、一応ヴィランとしての立ち位置を考えての行動だ。

（ああ、お子様。敵だからって叩かないで）

　ヒーローのマスクを被った子供たちが我先にと攻撃してくる。

「ぐわーやられるー」

　わざとらしくやられた振りをしてマントで顔を隠す。そして次の瞬間にばあーと模造刀を抜いて驚かせる。刀を振ってみたい子には自分だけを切るように伝えて、目が届く範囲に置いた。

「こいよヒーロー、遠距離武器なんて捨ててかかってこい」

　子供たちも全力だ。それに応えようと月詠も全力で応じる。もちろん写真撮影も協力した。パレード中は買い食いもできるので焼き芋を１つ買う。そしてマスクの口部分を開いて食べ始める。デザインの形を崩さず、実用的な仕様になっている。

（客が見ている前では絶対に脱がないのがコスプレイヤーだ）

　彼女なりの信条を反映させた着ぐるみに、イベントへの本気具合が窺える。焼き芋を美味しく頂いたあともパレードの列で歩き続け、出発点である役場前に戻ってきた。最後に『冬将軍』の人形を燃やすことでパレードは完結する。冬将軍のマスクをしている人もいるなかで、月詠はどうしても目立つ。

「自分の人形焼かれてるけどいいの？」
「元々そういう趣旨でやってるからいいのだよ」

　子供たちの心配にきっぱりと答える。

（季節とはそういうものだし、冬になる度思い出してもらおう、武将風のかっこいい熊を）

　燃え落ちる冬将軍を前にそんな思いを馳せた。それはそれとして、寒空で食べるアイスを満喫した月詠だった。

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