ファスニャハト・パレード｜リアクション

ファスニャハト・パレード

◆猫とライオン

　綾辻綾花は早川珪先生とデートを楽しんでいた。すると太陽のマスクをかぶった中沢リッカルド町長が音楽隊を引きつれてパレードを行っているところに出くわした。

「何かのイベントでしょうか？」
「どうやらファスナハトをアレンジしたものらしい」

　ファスナハトは春の到来を祝う海外の祭りだ。こういうのも楽しそうなので参加することにした。綾花はスタッフが配っていた猫モチーフのマスクを受け取った。

「カッコいい感じのマスクですね。珪さんは何のモチーフにしますか？」
「いろいろあって迷うところだけど……」

　珪先生は同じ猫つながりでライオンを選んだ。デフォルメのデザインなので勇ましさよりも可愛らしさが出ている。

（こういう珪さんもいいですね）

　彼の新たな一面を垣間見た気がして、彼女は嬉しかった。逸れないように綾花は珪先生と手をつないでパレードの列に入る。食べ歩きもできるので、時折彼に『あ～ん』と食べさせつつ、島の中を練り歩く。

「いつもと違う景色に感じます」
「こういう楽しみ方もいいね」

　寝子島町役場から出発し、旧市街、シーサイドタウン、星ヶ丘と巡ったパレードはふたたび寝子島町役場へ戻ってきた。そこには『冬将軍』の人形があり、これに火をくべて燃やすことで春の訪れを祝う。人形が燃やされてるのを見てると、もうすぐ春が来るんだなと実感する。

「もうすぐ春ですね。珪さんとお酒が呑めるのが楽しみです」

　綾花は６月になったら２０歳になる。すぐに彼とお酒が呑めるわけではないが、その時が来るのが待ち遠しかった。人形が完全に燃えて片づけが済むと、パレードは終了した。そして役場の前ではちょっとした軽食や飲み物が用意され、立食パーティが開かれた。ここまで被ってきたマスクを２人とも外してパーティに参加する。
　
「今日はいっぱい歩いたからお腹すいてます」
「僕たち途中参加とはいえ、だいぶ歩いたからね」
「珪さんが好きなものがあれば今度作りますね」

　お酒もあるようなので珪先生にワインを勧める。

（酔ってる珪さんは可愛いですから）

　そうして歓談を楽しみ、そろそろ帰ろうかと思ったところで割引チケットを渡された。パレードに参加した人全員に配られているらしい。
　
「割引チケット、折角なので次のデートで使いますか？」
「そうだね」

　期限は一週間で、寝子島内の飲食店ならどこでも使える。まだまだ考える時間はありそうだ。

「とっても楽しみです」

　綾花の満面な笑顔に珪先生も嬉しそうに微笑んだ。

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