ファスニャハト・パレード｜リアクション

ファスニャハト・パレード

◆魔女と魔法使い

　稲積柚春はウォルター・Bとともにファスニャハトに参加する約束をしていた。今回のイベントは仮面や着ぐるみを被って寝子島中をパレードで練り歩く。折角ならばと現地集合でお互いの仮装を見せあうことにした。柚春は魔女の仮装でフェイスベールにつばの広い帽子をかぶり、ローブを羽織っている。手作りの焼き菓子を小さな袋に詰めて、それを籠に入れて配り歩くつもりだ。

（ワットは結局何の仮装にしたんだろう？　音楽隊とか？　それとも僕とお揃いかな？）

　ファスナハトではわざと音階を少し外して演奏するブラスバンド『グッゲンムジーク』があり、もちろんファスニャハトにも音楽隊が参加している。ウォルターは歌が苦手なので、それを踏まえての選択はあるかもしれない。あるいは柚春とお揃いで魔法使いだろうか。

「稲積、おまたせ」

　柚春の前に現れたウォルターは丈の長いローブに、指揮棒のような杖を持っていた。彼の外見も相まって、本当に魔法が使えそうな雰囲気だ。

「どうかな？」
「とっても似合ってるよ、ワット」

　２人で並ぶと魔法世界の住人になったような気持ちになる。いざパレードが始まると、参加者は自由に振舞っていた。ふつうに歩くのもよし、買い食いもよし、歌を歌ったり踊ったりもよし。各々が好きな形でパレードを楽しんでいる。柚春たちは観客に対して用意したお菓子を配ったり、手を振っていた。

「こういうのも楽しいね」
「そうだねえ」

　町役場を出発して旧市街、シーサイドタウン、そして星ヶ丘までやってくるとパレードも折り返しだ。これから町役場に戻っていく。

「ワット、歩き疲れてない？　冷たい紅茶も持ってるよ」
「ありがとう」

　もちろん柚春たちが食べ歩きする分のお菓子やピンチョスもある。祭りが楽しくて忘れそうだが、町役場から星ヶ丘までは結構な距離がある。楽しむためにも体調管理は大事だ。戻り道の途中でふと、なんだか静かに歩いている狼が目に入った。柚春は気になったので声を掛けた。

「お祭り、楽しんでますか？」
「は、い……多分、たの、しい、です……？」
（楽しんでるならいいんだけど……見られて緊張してたり、疲れてたりするのかな）

　たどたどしいしゃべり方で心配したが、お菓子を渡すと嬉しそうに見えて安心した。

「役場でのパーティも楽しみましょうね！」

　そう言い残してウォルターのもとへ戻った。パレードが役場まで戻ると、用意されていた『冬将軍』の人形に火を灯す。これからきっと春が訪れるだろう。その後、２人は町役場の前で開かれた立食パーティも楽しんだ。

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