ファスニャハト・パレード｜リアクション

ファスニャハト・パレード

◆はじめてのお祭り

　白銀絆は付喪神だ。
　しかし自分の依り代が何かも分からず、自分自身のこともよく分からない。つい最近寝子島に顕現したばかりのあやかしのため、知らないことばかり。どうやら寝子島では祭りが行われているようだが、何の祭りなのか、どういった振る舞いをするべきなのか見当もつかない。したらば道に迷うような感覚のまま、気が付けばパレードに参加していた。
　周りには仮面や着ぐるみをまとった人々ばかり。
　絆は生まれ持つ白銀の狼の耳と尾を、黒い黒い狼の面で顔半分を隠す。その姿のままでも問題ないかもしれないが、彼にはそれが正解なのか分からずスタッフが配っていた仮面をとりあえず受け取った。

「……えっと、とりあえ、ず、こんな、感じ、で、いい、んでしょうか？」

　仮面を被った姿を確認できないので、不安が募る。確信が持てないまま町長の合図で音楽隊の演奏が始まった。そして彼自らが先導し、パレードが動き出す。ぼんやりと流されるままに、周囲に合わせてぎこちなくも舞を舞う。作法もなにも分からない。これを楽しいと呼ぶのかどうかも分からない。
　買い食いをする人、歌を歌う人、踊る人、紙吹雪を撒く人。本当にさまざまな人がいる。それらをとりあえず真似してみるが、何かを得た感触は無かった。

（わから、ない……です……）

　楽しいという感覚が分からないから、今が楽しいのかつまらないのか判断できない。気づけばパレードも折り返し、町役場に戻っていく。シーサイドタウンを抜けて旧市街へ入ろうかといったところで稲積柚春に声を掛けられる。

「お祭り、楽しんでますか？」
「は、い……多分、たの、しい、です……？」
（楽しんでるならいいんだけど……見られて緊張してたり、疲れてたりするのかな）

　折角のお祭りだし、もうすぐ終わってしまう。せめて思い出になればと、彼女は用意していた菓子を差し出す。

「よかったら、これどうぞ。私の手作りなんです」
「あり、がとう、ござい、ます」
「役場でのパーティも楽しみましょうね！」

　そう言い残して彼女はローブ姿の男性のもとへ戻っていった。彼はこのとき、初めて感情と呼べるものを知った気がした。

（感情とは、人の営みと共に育まるるものなのやもしれません）

　初めて覚えた喜びと楽しみと、ひとときの出会いに感謝の念を抱く。先ほど受け取った菓子を口に運ぶと、ほのかな甘さが広がる。

「んー……おい、しい、です、ね？」

　一口ずつ味わうように食べ進める。

（人とは、人の世とは、なんと興味深いのでしょう）

　わくわくする気持ちを胸に、尾を振って人混みに溶けこんでいった。

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