心が弾む日｜リアクション

心が弾む日

◆幸せ日和

　その日、朝永真深はワクワクと胸を高鳴らせながら歩いていた。
　方向音痴というほど、ひどくないが、実は彼女は、そんなに地理に強くない。
　それでも寝子島なら、こうしてほっつき歩ける程度には慣れている。
（まあ、生まれ育った土地だしね）
　真深はしみじみと思う。
　それに、今日はなんだか、とてつもなくいい気分だ。
　素敵な予感に包まれて、足取りまでもが軽い。
「なんか、不思議な感じ。どうしてかな」
　いつもとは違う陽気をはらんだ風に、真深の心は弾む。
　寝子高に入学してまだ半月も経っておらず、まだ、高校生活には慣れてない。
　だけど、そんなどこか宙ぶらりんで少し焦ってしまうような日々から、ちょっと解放されたからだろうか。
　こんなにも、心が浮き立つのは。
　真深は不思議に思いながらも、星ヶ丘の自宅を出る。
　そして、瀟洒な街並みをてくてくと歩いていく。
　ちょうどいいタイミングで来ていたねこでんに乗り、シーサイドタウン駅で降りる。
　待ち時間もなく、何事もスムーズに進んでいく。
　今日は、何をするにしても順調だ。
　どんなことでも、うまくいくような気がした。
　真深は気が向くままに、適当に街を歩いていく。
　すると、そこには古着屋があった。
（気になる場所ね）
　飛び込みで入ってみたら大正解。
　店内に入ったら、いきなり、自分好みのデニムジャケットを発見したのだ。
　これには思わず、テンションが上がる。
「ちょっとサイズが大きめだけど、これ欲しいから買っちゃう」
　降って湧いた幸運を前にして、真深は満足げに言った。
　それから店内を見て回り、いくつかTシャツなども購入した。
　どれもお気に入りの色やデザインだったので満足だ。
　会計を済ませる時も、更なる幸せの光が灯った。
「お客様、当店では購入金額に応じて福引き券を交付しております」
「わぁ、福引き券」
　真深は明るい笑顔を浮かべる。
　店員から購入金額に応じて、福引き券を貰ったのだ。
　聞けば、近所のキャットロードで福引きをやっているとのことだった。
　なんか、ハッピーな気分だ。
　店の外に出ると、柔らかな風が彼女の幸せを歌った気がした。
　そのまま、ふわりと突き動かされるように、福引会場へ向かう。
「では、３回、どうぞ」
　福引き券を渡すと、受付の人からそう言われる。
　真深はガラガラと３回、回してみた。
　すると、からんからーんと涼やかな鐘が鳴る。
「おめでとうございます。スポーツタオルセットとスマートフォン用のイヤホンです」
　……さすがに、特等とかはゲットできなかった。
　だけど、思わぬ戦利品。
　スポーツタオルセットとスマートフォン用のイヤホンをゲットできた。
「スポーツタオルか……部活で使えるから助かるな」
　受付の人から渡された景品を見て、真深は表情を華やかせた。
　彼女は水泳部。
　スポーツタオルは、様々な面で使えるだろう。
「今日はいいことがあったわね」
　真深は改めて、喜びを実感する。
　彼女の表情は、満開の輝きで満ちていた。
　そうしてまたひとつ、もうひとつと幸せを重ねながら、思い思いに羽を伸ばして歩いていった。

　ふわりと風が吹く。
　いろんな幸運が芽生えるように。
　ハッピー・エアーは幸せを彩りながら、吹き抜けていった。

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