心が弾む日｜リアクション

心が弾む日

◆いつかの空と二人の未来

　桜井ラッセルはその日、街へと繰り出していた。
　ふと、足を速めたその時。
　見覚えのある一羽の鳥が視界の端を掠める。
　ハッとして立ち止まり、ラッセルは目を見開く。
「今、飛んでたのって……」
　大切な存在を追いかけるように必死に走る。
　やがて、木の枝に降り立ち、ようやく追いついたツバメに、ラッセルは声をかけた。
「まさか！　やっぱりそうだ。南に行った仲良かったツムギだよな！？」
　そこにいたのは、もれいびだった時の鳥友。
　渡り鳥に再会して思わず、心が舞い上がった。
「うわ、久しぶり！　俺だ！　……ってわかんねーか。俺、カナリアの姿だったもんな～」
　ツムギは誰なのか分からず、不思議そうにしている。
「……今は言葉も分かんねーんだけど、凛々しくなったんじゃねーか」
　見違えたツムギの姿を見て、ラッセルは嬉しそうに笑った。
「お？　お嫁さんか」
　そこでツムギの隣に、別のツバメがいることに気づいた。
「どうも、友達の桜井です」
　ラッセルはお道化て自己紹介をする。
「お前も、立派な旦那さんか～。年月が経つのも早いなー」
　ラッセルは感慨深そうに空を仰ぐ。
（……俺も、いつかなれる日がくるのかな）
　微笑ましい光景を見て、思い浮かぶのは恋人の風の精晴月のことだった。
　再会の喜びの束の間、やがてツムギ達は空へと飛び去っていった。
　――無限に広がる蒼穹の向こうへ。
「あの後、気になってたから、様子が見れてよかったな」
　名残惜しいと思う、その気持ちがラッセルの胸に溢れる。
「あいつ、俺の鳥友だったんだ～。いつの間にかバタつかずに立派に飛べるようになっちまって……。俺も兄弟に負けてられねーな」
　ツムギと紡いだ絆。
　その絆があれば、希望はいくらでも生み出すことができるはずだと信じているから。
（未来か……俺はどうなるんだろ。一緒に歩んでいけたら、きっと）
　ラッセルのその想いは縋るような切実さを孕んでいた。
　――その時、レモングラスの香りが漂う。
「ラッセル！」
「晴月！」
　ラッセルははっとして、勢いよく振り返る。
　そこには待ち焦がれていた晴月がいた。
「会えたらいいなって思ってたんだ！　今日は何してたんだ？」
「ラッセルに会うために、ここで待っていたんだよ」
「……つか、待っててくれた？」
　思いもよらない告白に、ラッセルの心は大きく弾む。
「クレープでも奢るから、今日あった面白いこととか、一緒に行きたい場所があったら教えてくれよ。付き合うぜ」
「うん、いいよ」
　恋人の笑顔は何物にも代えがたい。
　二人はおしゃれなお店に繰り出していく。
「そういや、お揃いのもんとか興味あるか？」
「お揃い？」
「好きなもんがあったら持ち歩きたいしよー」
　ラッセルはちらりと晴月の様子を窺う。
　すると、目を輝かせた晴月はペアカップをかじりつくように見た。
「興味あるー！」
「即答かっ！　でも、それなら良かった」
　予想以上の喜びように、ラッセルは嬉しくなって、晴月が見ていたウサギの柄のペアカップを手に取る。
「とりあえず、今日はこれでも。なんかいいよな」
「わあっ、白いもふもふ！　ラッセルとお揃いだ！」
　無邪気にはしゃぐ晴月に、ラッセルは思わず、叫びそうになった口を手のひらで押さえた。
　『お揃い』というワードの破壊力はすごい。
「考えといてくれよ」
「うん、分かった」
　かろうじてそう言うと、晴月がぎゅっと抱きついてきた。
（手作りもありだよなー。木彫りのキーホルダとか）
　晴月の微笑みに、ラッセルは嬉しさで胸がいっぱいになった。

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